名誉棄損

名誉毀損罪(刑法230条1項)が成立するには、公然性と同定可能性とが要求されます。今回は、著作権侵害が認められなかったが、名誉棄損罪が一部認められた事例を紹介します(令和7年(ネ)第10007号 著作権侵害差止等請求本訴・損害賠償請求反訴控訴事件、同第10026号 損害賠償請求反訴附帯控訴事件)。公然性については、不正競争防止法上の営業秘密要件のうち秘密管理性や非公知性の判断に近いです。

(要旨)ア 公然性について
原告は、本件サーバーは、管理者等による限定メンバー招待制の閉鎖的コミュニティであり、25人程度のメンバー中、実際の閲覧者はごく少数であって、メンバー構成も相互の面識や繋がりを前提とするから、外部への転載・拡散も禁止されている蓋然性が高いこと、不特定多数のクリエイター等への伝播可能性も抽象的であることなどから、公然性は認められないと主張する。しかしながら、本件サーバーにおいてメンバーに対し、投稿内容を外部に拡散しないよう厳しく管理していることを認めるに足りる証拠はない。また、本件サーバーは、メンバー構成が限定的で相互の面識や繋がりを前提とするものであっても、必ずしも少人数とはいえず、メンバーの入れ替わりがあり得ることを考慮すると、本件サーバーでの投稿内容が、所属している者から、同人誌掲載作品を含む各種作品の不特定多数の関係者に伝播する可能性は否定することはできない。よって、公然性を争う原告の主張を採用することはできない。
イ 同定可能性について
原告は、本件投稿において、被告を直接名指ししておらず、文脈上「原告の作品を勝手に漫画化した人がいる」というにとどまり、客観的に被告を特定できる情報が投稿文面にないため、一般閲覧者からは実態が不明であって同定可能性はないなどと主張する。しかしながら、本件において一般閲覧者に相当するのは、本件サーバーに所属し各種作品等を通じて面識があるクリエーター等である。これらの者は、本件投稿で言及されている漫画の販売態様等から、本件サーバー等を通じた被告の一連の活動を具体的に推知することが可能であると考えられ、現に本件サーバーのメンバーが本件投稿の対象が被告であることを認識し得たとしていること(乙42、63)に照らすと、本件における一般読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件投稿の対象が被告であると特定することができたというべきである。よって、同定可能性を争う原告の主張を採用することはできない。

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