周知技術の適用(進歩性)
特許不服審判の拒絶審決に対する審決取消訴訟で原告の請求が棄却された事件を紹介します(令和 5年 (行ケ) 10144号 審決取消請求事件)。審判で新たな拒絶理由が見つかった場合は拒絶理由通知を出さなければなりませんが、単なる周知技術の裏付けのための新たな引用文献であれば、拒絶理由通知を出すことなく拒絶審決が出されても問題ないとの判断です。出願人にとって1回の応答でいきなり拒絶査定となることがありますが、審査官や審判官によって対応はまちまちです。
また、引用文献に技術分野の異なる周知技術を適用するのは通常の操作創作能力の発揮に過ぎないと判断されており、できれば、引用文献に周知技術を適用したら課題を解決できない等の阻害要因がある反論を加えておくことがベストです。
(要旨)本件拒絶理由通知において示されていない参考文献1ないし4について、意見書を提出する機会等が与えられていないから、本件審決の手続は、特許法159条2項で準用する同法50条に違反する旨主張する。本件審決で追加提示された参考文献1ないし4は、本件拒絶理由通知で指摘されていた引用文献2に例示される周知技術の裏付けとなる刊行物等の証拠を追加したものに過ぎず、新たに拒絶理由を通知しなくとも特許法159条2項の準用する同法50条違反の問題が生じない。
仮に技術分野と課題が異なるものであったとしても、上記のと おり、引用発明の高圧電源を具体化するにあたり、分野を問わず周知の電源回路の中から、具体的にどの回路を選択するかという点には、何らの困 難性も認められないから、食品電場処理装置の技術分野の当業者が高圧電源として周知のコッククロフトウォルトン回路を採用することは、通常の創作能力の発揮に過ぎない。さらに、引用発明に、周知のコッククロフト ウォルトン回路を採用することに阻害要因があるものとは認められない。