国際裁判管轄
国際裁判管轄に関する規定において、民訴法3条の3第8号「不法行為に関する訴え」については「不法行為があった地」を基準として国際裁判管轄を定めることとしています。日本の裁判所において、契約書レビューサービスの提供に関する広告及び価格表について被告標章を付して電磁的方法により提供することの差止め等が認められなかった裁判例を紹介します(令和 5年 (ワ) 70022号 商標権侵害行為等差止請求事件)。
民訴法3条の3第8号の「不法行為に関する訴え」は、違法行為により権利利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者が提起する差止請求に関する訴えをも含むものと解される。そして、このような差止請求に関する訴えについては、違法行為により権利利益を侵害されるおそれがあるにすぎない者も提起することができる以上は、同号の「不法行為があった地」は、違法行為が行われるおそれのある地や、権利利益を侵害されるおそれのある地をも含むものと解するのが相当である。
違法行為により権利利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者が 提起する差止請求に関する訴えの場合において、同号の「不法行為があった地」が日本国内にあるというためには、被告が原告の権利利益を侵害す る行為を日本国内で行うおそれがあるか、原告の権利利益が日本国内で侵害されるおそれがあるとの客観的事実関係が証明されれば足りるというべ きである(最高裁平成26年4月24日第一小法廷判決・民集68巻4号329頁参照)
(要旨)被告が、本件被告ウェブサイトにおける「AIに基づく契約書及び電子メールアカウントのレビュー」について、日本国内の利用者にサービスを提供していることを示す証拠は見当たらないところ、証拠 (甲2、8、乙1)によれば、①本件被告ウェブサイトは全て英語で記載されていること、②本件被告ウェブサイトに掲載された価格表には、米国ドルでの価格が表示されており、円での価格は表示されていないこと、③ 本件被告ウェブサイトには、被告に対する問合せ先として、メールアドレ ス((メールアドレス省略)) とともに米国の住所及び電話番号が記載されており、日本の住所又は電話番号は記載されていないこと、④本件被告ウェブサイトには、日本語で作成された契約書又は日本法を準拠法とする契約書に関するレビューサービスについての記載はないこと、⑤本件被告ウェブサイトのサーバは米国に所在すること、⑥被告は、「LegalForce」の文字を含む標章を付した役務の提供を日本において申し出る計画を有していないことが認められる。以上の点を考慮すれば、本件被告ウェブサイトを日本において閲覧することができたことを踏まえても、本件被告ウェブサイトにおける被告標章(被告表示)の表示が、日本の需要者を対象としたものであるということはできず、これによって、原告の権利利益が日本国内で侵害され、又 は侵害されるおそれがあり、また、原告の権利利益について日本国内で損害が生じたということはできない。