実施可能要件

特許法第36条第4項第1号には、明細書に当業者が実施できる程度に発明を記載しなければならない規定(実施可能要件)がありまして、これに違反すると拒絶理由、無効理由となっています。実施可能要件は、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、特許を受けようとする発明の実施をすることができる程度の記載があることを要するとされています。今回は、技術常識を考慮して明細書に記載のない発明であっても実施可能要件を満足すると判断された事件を紹介します(令和4年(行ケ)第10124号 審決取消請求事件)。

(要旨)本件出願当時のロールインナーの構造を踏まえても、棚板を展開する動作自体が格別複雑なものとはいえない。実際、被告が提出する証拠(乙1)によれば、フックを外すため、ロボットアーム先端の把持部にある吸着面を棚板に接触させた後、吸着面(棚板)を棚板後方に傾斜させ、吸着面(棚板)の傾斜を維持しながら手前斜め上方に棚板を引くという動作上の工夫は必要であるものの、棚板を容易に展開できている。当業者は、本件出願当時の技術常識を踏まえ、棚板の展開を実現できると認識することができるものと認められる。

本件明細書の発明の詳細な説明には吸着以外の手段を用いて棚板を展開する構成についての記載はないが、棚板を展開する動作自体が格別複雑なものとはいえないことは上記1(3)記載のとおりである。本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、吸着以外の手段であっても棚板の展開が実現されることは、当業者であれば容易に理解できるといえ、この点でも本件発明がサポート要件に違反するということはできない。

【請求項1】
ロボットヘッドとロボットアームと制御部とを備え、展開された使用状態と収納状態との間で状態変更可能な棚板を複数枚有する移動式のラックに前記ロボットヘッドで保持した卵パックを移載するロボットシステムであって、
収納状態の棚板を使用状態に展開させる手段をさらに備え、
前記展開させる手段は、卵パックを移載するロボット又は卵パックを移載するロボットとは異なる装置であり、
前記ロボット又は前記装置は、卵パックが移載された棚板の上段側にある収納状態の棚板を使用状態に展開させる、ロボットシステム。

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