実施可能要件
特許法第36条第4項には、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に明細書を記載しなければならないという、実施可能要件の規定があります。この実施可能要件が争点の一つとなった事例を紹介します(令和7年(行ケ)第10037号 審決取消請求事件)。進歩性で取り上げた周知技術によって実施可能である旨を主張することは、前提となる事情や要件の判断が異なるとされました。
(要旨)原告は、本件発明における平面領域の回転について、任意に移動され、また、傾斜させられた歯科用インプラント長軸を含む断面を回転させるという技術まで直ちに周知慣用技術であるとはいえず、実施可能ではない旨主張する。しかし、上記同様、周知慣用技術を用いれば、任意に移動され、また、傾斜させられた歯科用インプラント長軸を含む断面を回転させることも実施可能であるというのが相当である。なお、原告は、仮に、「任意に移動され、また、傾斜させられた歯科用インプラント長軸を含む断面の回転」する技術が周知慣用技術(周知慣用技術5 A)であるとすれば、相違点1-6に係る構成は、甲1発明に前記周知慣用技術を適用することによって容易に想到し得たものである(取消事由1)と主張する。しかし、引用発明や周知技術によって本件各発明を想到できるかを問題とする進歩性要件の判断と、本件各発明の課題、解決手段及び作用効果が実施可能かを問題とする実施可能要件の判断では、前提となる事情や要件の判断が異なるものであって、原告が主張するように、周知慣用技術Aによって実施可能であれば進歩性が欠如するなどと、連動して短絡的に判断することができるものではない。

