引用意匠の認定
意匠審査基準では、本願意匠の認定に際し、図面に表された部分について意匠登録を受けようとする意匠として取り扱われます。今回は、引用意匠の認定でこの基準が適用されるか否かが判断された事例を紹介します(令和7年(行ケ)第10091号 審決取消請求事件)。記事に引用意匠の一部しか表れてとしても、引用意匠の認定の際には、本願意匠の認定基準は適用されないと判断されました。
(要旨)本件審決が説示するとおり(審決書17頁)、マフラー等の一部の部品を除けば、自動二輪車は車体に対して左右対称であるのが一般的であり、自動二輪車の片側の形状等が特定できれば、見えない反対側の形状等も認定することが可能であるといえる。また、引用意匠は、向かって右側が自動二輪車前方となるように表され、静止状態の引用意匠は右斜め前方が手前に来るような構成となっており、自動二輪車の一方の側面のみが描かれたものではなく、フロントカウル部についてはその正面部分がおおむね見えるように描かれているところ、上記フロントカウル部の正面部分の形状等及びバックミラーの取り付け位置は左右対称であり、このような引用意匠に接した需要者は、一般的な自動二輪車と同様、引用意匠の自動二輪車も一部の部品を除いて車体に対して左右対称であると認識するといえる。したがって、引用意匠に自動二輪車の片側の形状等しか示されていないとしても、そのことをもって、自動二輪車全体の意匠等を認定することができないとはいえず、本件審決が引用意匠として自動二輪車全体の形状等を認定して、本願意匠と引用意匠との類否を判断したことが誤りであるともいえない。原告は、上記主張において、意匠審査基準(令和2年)第Ⅱ部第1章115 頁(甲17)に、「どのような意匠について意匠登録を受けようとするのかは、願書の記載及び願書に添付した図面等の内容から定められるものであって、開示されていない範囲の形状等(他の図と同一又は対称の説明記載により図示省略された形状等を除く。)については、意匠登録を受けようとする部分の形状等として取り扱わない。」と の記載があり、意匠審査基準(令和2年)第Ⅲ部第1章9頁(甲19)に、「意匠に係る物品等の全体の形状等が図面に表されていない場合、審査官は、図面において開示されていない範囲の形状等(規則に従い省略した場合を除く。)については意匠登録を受けようとする部分として取り扱わず、図面において表された部分について意匠登録を受けようとする部分とする意匠として取り扱う。」との記載があることを挙げる。しかし、審査基準は法規範性を有しないものである上、本件で問題となっているのは、本件記事の中に存在するCG画像からどのような引用意匠を認定することができるかについてであり、意匠の出願に際して開示が必要な形状等に関する審査基準、あるいは意匠に係る物品の全体の形状等が出願の書類に示されていない場合に特許庁がどのような意匠を認定するかに関する審査基準が、引用意匠の認定に関する上記問題点に対する判断に適用されるとは解されない。また、原告が上記主張において挙げる意匠審査基準(令和2年)第Ⅳ部第1章(甲15)は、公知資料に記載された物品又は建築物の表示部等に画像が表されている場合の扱いについて述べたものであり、意匠審査基準(令和5年)第Ⅲ部第3章5頁(甲6)は、改正後の意匠法4条3項の証明書に記載された公開意匠に係る物品等の中で分離して識別可能な部品・付属品等が存在し、当該部品・付属品等が公開意匠である場合に、当該部品・付属品等が物品等の内部に隠れている場合は外部に表れた箇所のみを公知意匠として扱うとの記載があるものであって、いずれも本件とは場面が異なるものである。

