技術分野の相違

引用発明に他の刊行物に記載の技術的事項を適用する際、技術分野が同一である必要があります。今回は、無効審判で有効と審決された案件で、審決取消訴訟でも有効が維持された事件を紹介します(令和5年(行ケ)第10044号 審決取消請求事件)。技術分野を認定する際に、需要者、取引者、製造者の相違も考慮しています。

(要旨)甲2には、洗濯機漕内面全体の形状を波形状とすることで洗濯効率を向上させようとする技術的事項が記載されているものであって、水を溜めて洗濯物の洗濯をする機械に関するものであるのに対し、前記2(1)アのとおり、甲1発明は、牛、子牛及び羊の足の脱毛並びに子牛の頭の脱毛に用いる装置に係るものであって、その対象となるものが、甲2記載事項では洗濯物であるのに対し、甲1発明では、牛等の足及び頭であって大きく異なり、また、その
目的が、甲2記載事項では洗濯であるのに対し、甲1発明では脱毛であるから、技術分野が異なる
というほかない。
そして、甲1には、甲1発明において、円筒形の筒状タンクの内壁の形状を変更する動機付けに係る記載又は示唆があるということはできない。前記2(1)アのとおり、甲1(訳文3頁)によれば、突起部29は、「全体の攪拌を保証する」ものとされており、筒状タンクの内壁の摩擦抵抗を利用して除毛することを目的として同突起部が設けられたことを示すような記載はない。これらに加え、甲2の記載からは、甲2記載事項において洗濯機槽を四角形としたことについての技術的意義を読 み取ることはできないことも考慮すると、甲1発明において、円筒状の筒状タンクの内壁を甲2記載事項のように変更する動機付けがあると認めることはできない。そうすると、甲1発明に甲2記載事項を適用する動機付けがあるとはいえない。(イ) 原告は、甲1発明と甲2記載事項は、共に攪拌による旋回流の生成により処理対象物に水槽の内壁との間に摩擦抵抗を与えて処理するものであり、共通する技術分野に属すると主張するが、「洗濯機」と「牛等の足等の除毛装置」では、その需要者や取引者、さらには製造者も異なるというほかないのであって、上記原告の主張は、発明の属する技術分野を過度に抽象化するもので不適当というほかなく、採用できない。

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