数値限定発明の数値範囲の解釈
数値限定発明では、その数値範囲の前後において実験データを明細書に記載し、臨界的意義を開示することが望ましいですが、それができない場合でも、その数値範囲の意味(〇〇以上とは、小数点以下を四捨五入したものを含まれる等)を明細書に記載しておくべきという教訓となる判例を紹介します(令和 6年 (ネ) 10026号 特許権侵害行為差止等請求控訴事件)。
(要旨)
本件各発明の構成要件1B、6Bの「(紫外線吸 収剤の)分子量が700以上」という数値限定は、いわゆる臨界的 な意義を有するものではない(控訴人もこれを自認している。)。すなわち、本件各発明の作用効果との関係で技術的意義を有する分子量は、ピンポイントの700ではなく、かなり広い幅(実施例で 用いられた「958」と最大分子量の比較例で用いられた「676」 の間の領域)にまたがる数字と考えられるが、いわば「切りのよい 数字」として「700以上」という数値限定を採用したものと理解される(甲21も同旨)。
自らが任意に定める数値であれば、本来の技術的範囲を画する数字として「端数のある数値」をまず決めた上で、当該 数字を「丸める処理」をして、わざわざその「丸められた数値」を 特許請求の範囲に掲げるなどという迂遠かつミスリーディングなこ とをする必要性も妥当性も見いだせない。本件特許の特許請求の範 囲の記載に接した第三者の立場から考えても、「700以上」という数値範囲が示されているのに、当該数値の背後に「丸める前の数 値」が別に存在しており、そのような背後の数値こそが技術的範囲 を画する数値であるなどと理解するとは考え難い。
数値範囲にこれと異なる趣旨、役割を持たせたいのであれば、特許請求の範囲又は明細書に、分子量の計算方法や小数点以下の数値 の処理等を説明しておくべきである。本件明細書等にそのような記 載がないことは前述のとおりであり、以上によれば、「分子量が7 00以上」という構成要件は、分子量が700をたとえ0.000 01でも下回れば、これを充足しない(その技術的範囲に属さない) ものと解すべきことになる。
控訴人の主張するクレーム解釈(「分子量が700以上」の「700」は小数第1位を四捨五入した数値と理解されるから、上記構成は「699.5以上」と解釈すべき旨の主張)は 採用できない。被控訴人UVAは、その分子量が700には満たな い699.91848であるから、被控訴人製品は構成要件1Bを、被控訴人方法は構成要件6Bを充足しない。