新規事項の追加
特許請求の範囲を補正するとき、明細書及び図面の記載から一義的に理解できる内容であれば、新規事項の追加にあたらないとして認められます。今回は、「閉システム」という補正が明細書及び図面の記載から認められ、進歩性が肯定された事件を紹介します(令和6年(行ケ)第10042号 審決取消請求事件)。国によって異なりますが、日本の場合は、発明の本質を端的に表現するために、明細書に記載のない用語で補正することが認められた事例です。
(要旨)原告は、本件審決が、本件発明5に係る相違点9に関して、温度調整部の扉を有しないことについてその技術的意義を肯定し進歩性を肯定するような判断
を行うのであれば、翻って、本件特許には、新規事項追加の不備が存在すると主張する。しかし、補正が、明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。そして、当初明細書の段落【0010】及び【0011】並びに図2及び図4(以上、前記第2の3(2))によれば、「温度調整部3」と「出湯口4」との間の炉壁の下線部より下の部分は、常に溶解材料で満たされることになり、ここから温度調整部内に燃焼ガスや外気が流れ込むことはない。そして、他に「温度調整部3」内に燃焼ガスや外気が流れ込む開口や空隙は認められない。そうすると、当初明細書には、「温度調整部内に外部から燃焼ガスや外気などのガスが流れ込まない構造」、すなわち「閉システム」が記載されており、本件特許の請求項1に「前記温度調整部(3)は、閉システムであり、」との事項を追加する本件補正は、出願当初の「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。よって、本件補正が新規事項の追加に当たるとはいえない。温度調節部が扉を有するか否かによって、温度調節部が「閉システム」になるかが左右されるものではなく、原告の取消事由4に関する主張はこの点を正解しないものであり、採用することができない。