映画の字幕

映画の字幕には、翻訳者の氏名が表示されることが一般的です。今回は、翻訳者の氏名表示権や翻訳内容の同一性保持権が争われた著作権侵害事件を紹介します(令和 6年 (ネ) 10054号 損害賠償請求控訴事件)。字幕の翻訳者の氏名は、表示を要しないとの著作者の意思が客観的に認められない限り氏名表示を要し字幕として購入者等に認識される表現が変更されていれば、同一性保持権の侵害が生じるといった事例です。

(判決要旨)第1審被告フィールドワークスは、本件映画2と本件映画4の共通する動画部分にチャプターを入れる場合、本編の主音声(本件字幕付映画2)及び本編の字幕(本件字幕2)を鑑賞するためのチャプターとは別に第2のチャプターとして設定する結果、副音声(本件字幕付映画4)の字幕(本件字幕4)が一部欠落することがあるところ、これは故意・過失がなくても不可避的に生じるものである旨主張する。しかし、同主張は、改変がなされていないことの理由にはならない。・・・同一性保持権は、表現が改変されることにより、著作物の表現を通じて形成される著作者に対する社会的評価が低下することを防ぐためのものであるから、DVDに格納されたデータがオリジナルであるとしても、字幕として購入者等に認識される表現が変更されていれば、同一性保持権侵害が生じ得る

契約関係にある緊密な関係の当事者間においては、氏名表示権に関し、著作者の権利行使の意思表示がある場合に初めて、他の関係者は拘束される旨主張する。しかし、字幕付きの外国映画においては、字幕翻訳者の氏名を表示するのが一般的な取扱いであり(上記引用に係る原判決のとおり)、日本語字幕翻訳を業とする第1審原告が氏名表示の不表示をあえて望むとも考え難い。このような本件の事情に加え、著作者の名誉・声望・社会的評価、満足感等を保護するため、氏名を表示するか否かの決定を著作者に委ねたという氏名表示権の趣旨からすれば、表示を要しないとの著作者の意思が客観的に認められない限り氏名表示を要する

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