氏名表示権
著作権法第19条第3項は、著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし、著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができると規定しています。例えば、CDショップでBGMとして音楽CDを流す場合などは、著作者の名前を示す必要がありません。今回は、字幕翻訳者の氏名表示権が著作権法第19条第3項の規定が適用されないと判断された事例を紹介します(令和6年(ワ)第70368号 損害賠償請求事件)。
(要旨)被告らは、字幕翻訳者からの要望がない限り、氏名表示の要否は、当該映画作品の制作者又は販売者の裁量に委ねられるにもかかわらず、原告が氏名表示を求めることはなかったから、本件字幕は、原告自ら著作者名を表示しない選択をしたものであり、被告らが原告の氏名を表示しなかったことは、 著作権法19条3項にいう「著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがない」ものとして、本件には同項が適用される旨主張する。しかしながら、前記認定に係る事実経過によれば、原告には、DVD販売とTV放送が現にされるまでは、氏名表示権に関する主張をする機会がなかったことからすると、原告自ら著作者名を表示しない選択をしたものということはできず、被告らの主張は、その適用の前提を欠く。仮に、被告らが主張するように、番組供給事業者が翻訳者の氏名を記載するという業界慣行(乙D5、乙E19ないし27、乙E36、乙E38)があったとしても、氏名表示の要否が上記番組供給事業者の裁量に委ねられているということはできず、被告らの主張は、翻訳を業とする字幕翻訳業者に係る人格的利益の重要性を看過するものであり、著作権法19条3項の趣旨目的を正解するものとはいえない。

