特許異議申し立て取消事例
特許異議申し立てをして、特許権者が訂正請求をした後、取消決定が出た事件を紹介します。特許異議申し立てを受けて拒絶理由通知がでても、訂正請求をして維持決定が出ることが多いですが、新規事項追加として訂正が認められなかった事例です。
当然のことですが、引用文献と差異が出るように補正をする際、明細書等を見た当業者であれば理解できる技術的事項を追加することが重要です。
(要旨)訂正事項1で追加された、「第5コンベヤユニットの下り傾斜部における物品の搬送面は、その傾斜角度が様々に設定されるものである」という発明特定事項は、「様々に設定される」ことにいかなる設定の手段が含まれるか具体的に特定していないから、例えば、搬送設備の稼働中において、物品95の大きさの違い等に応じて随時傾斜角度を可変とするものも含まれると解する余地がある。しかし、「傾斜角度θ1」について、明細書の段落【0021】の記載においては、「トレー90への物品95の投入容易性と、トレー90上での物品95の起立困難性」を考慮して設定するとあり、何を考慮して傾斜角度を設定するのか、その設計にあたって考慮すべき要素が開示されているのみであって、そもそも、第5コンベヤユニット32の「傾斜角度θ1」を様々な角度に設定すべく、設計時あるいは設備の使用時を含めて可変であることが、明細書の段落【0021】のほか、明細書等の全体を確認しても、記載や示唆がされていない。したがって、訂正事項1は明細書等に明示的に記載された事項ではないし、明細書等の記載から自明である事項でもない。そして、搬送設備の稼働中において、物品95の大きさの違い等に応じて随時傾斜角度を変更することによって、物品の投入容易性は変わるから、訂正事項1は、明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。
(訂正事項1)「物品を載置可能なトレーを第1搬送経路に沿って搬送する第1コンベヤと、前記第1搬送経路の上方に設けられる第2搬送経路に沿って物品を搬送する第2コンベヤと、を備え、前記第2コンベヤが前記第1コンベヤによって搬送されるトレーに対して前記物品を投入する搬送設備であって、
前記第1コンベヤは、その少なくとも一部に、前記トレーの搬送面が搬送始端から搬送終端に向けて上方に傾斜する上り傾斜部を備え、
前記上り傾斜部は、前記第2コンベヤが前記トレーに対して前記物品を投入する物品投入位置に形成され、
前記第2コンベヤは、
前記第1コンベヤの上方で前記第1コンベヤに平行に配置された第4コンベヤユニットと、
前記第4コンベヤユニットの搬送方向の下流側に隣接して配置されるとともに、第4コンベヤユニットと別体に形成され、かつ前記第1コンベヤによって搬送されるトレーに対して前記物品を投入する第5コンベヤユニットと、
により構成され、
前記第5コンベヤユニットは、その少なくとも一部に、前記第1コンベヤに向けて下り傾斜部が形成されており、
第5コンベヤユニットの下り傾斜部における物品の搬送面は、その傾斜角度が様々に設定されるものであること
を特徴とする搬送設備。」