特許請求の範囲の「前記」
特許請求の範囲には、同じ用語が前出の場合に「前記」を用います。この「前記」第1所定入力が構成要件ごとに異なる入力方法なのか否かが争点となった事件を紹介します(令和7年(ネ)第10032号 特許権侵害行為差止等請求控訴事件)。第1所定入力の説明に「短押しまたは長押し」と使用されていても、全ての構成要件で使用される「前記」第1所定入力は、例えば短押しで統一されると判断されました。
(要約)控訴人は、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」は「前記短押しまたは前記長押し」と解し、構成要件J3の「前記第1所定入力」の入力方法と構成要件J4の「前記第1所定入力」の入力方法とは異なるものと解すべきであると主張する。
そこで検討するに、特許請求の範囲に記載された用語の解釈に当たっては、用語は、その有する普通の意味で使用し、かつ、明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用すること(特許法施行規則24条、様式第29備考8)に照らして解釈すべきである。
「または」は、二つ以上の事柄のどれかが選ばれる関係にあることを表す語であるから、構成要件J2の「第1所定入力」は、「第1所定入力」として特定された「短押し」か「長押し」のいずれか一方の入力方法を指すものであり、 そして、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」は、構成要件J2の「第1所定入力」と同一の入力方法を意味するものと解される。そうすると、本件発明における特許請求の範囲の文言の語義として、構成要件J3の「前記第1所定入力」の入力方法と構成要件J4の「前記第1所定入力」の入力方法とが異なるものと解する余地はなく、このような解釈によって、控訴人が主張するように、発光部が発光しているときに第2ボタンの「第1所定入力」を行ったときに、推薦色による記憶(構成要件J3)が行われるのか、推薦色による発光(構成要件J4)が行われるのかが定かではないことになったとしても、それは、本件特許の出願人による特許請求の範囲の記載の結果というほかない。
控訴人は、上記主張の根拠として、本件明細書の【図5】、【0052】、【0055】の記載を指摘する。しかし、これらの記載は、発光制御処理の詳細を示すサブフローチャートとして、第2ボタンが長押し又は短押しされた場合の処理を記載しているにとどまり(【0050】~【0057】)、そこには推薦色を記憶させる際の「第1所定入力」を長押し、推薦色で発光させる際の「第1所定入力」を短押しとする旨の記載はなく、「第1所定入力」が異なる入力方法を示すことを意味する記載もない。むしろ、【0074】には、「第1所定入力を短押し、第2所定入力を長押しとしてもよいし、第1所定入力を長押し、第2所定入力を短押しとしてもよい」と記載されており、「第1所定入力」と「第2所定入力」とが入力方法に応じて使い分けられている。そうすると、控訴人が指摘する本件明細書の記載が、「第1所定入力」という同じ用語であるのに、それらがそれぞれ異なる入力方法であるとの主張の根拠になるとはいえない。

