用語の解釈
特許請求の範囲に記載の用語の解釈にあたっては明細書等の記載を参酌する(特許法第70条第2項)ことができます。特許請求の範囲に記載された「円弧状」という用語の解釈にあたって、2つの直線が鈍角に交差する形状は含まれないと判断された事件(令和 4年 (ワ) 70058号 特許権侵害差止等請求事件)を紹介します。この事件では、均等侵害も争われ、第一要件(本質的部分)が異なるとして非侵害、また、意匠侵害も争われ、要部が非類似と判断されました。
(要旨)
構成要件D2の「回動方向に対して後方へ円弧状に反らせた」の意義について 証拠(甲12、乙1)によれば、「円弧」とは「円周の一部分」との意味を、 「状」とは「すがた、ありさま」及び「名詞に付いて、…のような形である、 …に似たようすである」との意味を、「反る」とは「物が弓なりにまがる」と の意味を、それぞれ有する語であると認められる。 また、本件明細書の【図7】に示されている切断刃の形状は、切刃部分全 体が曲線によって構成されているものと認められる。 以上の「円弧」 「状」及び「反る」の通常の用語の意味並びに本件明細書の 、 記載に照らせば、構成要件D2の「円弧状」とは、全体が曲線によって構成 されている円周の一部分のような形を意味するものであり、同「円弧状に反 らせた」とは、円周の一部分のような形で弓なりに曲がる形状を意味すると 解するのが相当である。
被告製品の構成及びあてはめについて 前提事実(4)イのとおり、被告製品の切断刃の切刃の形状は、「その刃渡り の基端側のほぼ半分(L1)まで上記切断刃の回動中心と油圧シリンダの連 結点を結ぶ線とほぼ平行に直線状に延び、残りの半分(L2)は傾斜角(α) 約150度でこの切刃の切断方向への回動方向に対して直線状に後方へ折れ ている」、すなわち二つの直線が鈍角に交差するような形状であることが認め られる。 そして、二つの直線が鈍角に交差するような形状は、円周の一部分のよう な形で弓なりに曲がる形状とはいえないから、被告製品の切断刃の切刃の形状は、「円弧状に反らせた」ものと認めることはできない。