翻案権
著作権侵害でよく出てくる複製権は著作物をそのままの形で利用するものですが、翻案権は著作物を用いて新たな著作物を創作する権利です。この翻案権に基づいて創作された著作物を二次的著作物といいます(著作権法2条1項11号)。今回は、翻案権の侵害であるとした事例を紹介します(令和5年(ネ)第10038号 著作権侵害差止等請求控訴事件)。
(要旨)翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。これを本件において検討すると、被控訴人Y’が制作した本件展示物15から20は、本件染描紙15から20に依拠し、原判決別紙染描紙(15~20)一覧において、四角い枠を付したものとして示した写真における、四角い枠で囲んだ部分を利用して、補正した上で引用した原判決第3の2⑶で認定した制作過程を経て制作されたものと認められ、また、本件展示物15から20は、作品の全体像として、 Yアートワークス/天空図屏風シリーズ」と題する一連の作品として、屏風様式を取り入れ、上記作品より一回り大きい茶色のアルミ複合版製の下地とともに設置され、晴天の日の日中は、各展示場の上方の天井にそれぞれ存在する天窓から日差しが差し込むように配置され、本件展示物15から20が展示されている各壁面の正面付近の各床には、本件展示物15から20について、本件説明とともに、それぞれ各和歌(原典及び口語訳)が記載された説明書きが埋め込まれていて、これらの構成要素が組み合わされて仕立てあげられた作品であることが認められるから、本件染描紙15から20の具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現するものと認められるものの、本件展示物15から20の屏風の部分の表現と本件染描紙15から20の上記四角い枠で囲んだ部分の表現とを対比すると、前者は後者と比較して、全体的に青系の色彩が強調され、また、刷毛のあとや染色の境目などの輪郭が鋭く明確化されているなど、両者は色合いや色調に多少の相違が認められるものの、刷毛状の模様、にじみ具合及びこれらの構成や配置は極めて類似しているから、本件展示物15から20に接する者が本件染描紙15から20の表現上の本質的特徴を直接感得することが十分に可能であるということができる。したがって、本件展示物15から20は、本件染描紙15から20を翻案したものであると認めるのが相当である。

