著作物の引用利用

著作権法32条1項には、公表された著作物の引用利用が規定されています。今回は、引用利用にあたるか否かが争われ、主に、著作物の利用が引用利用に該当しないを判断された事例を紹介します(令和6年(ネ)第10075号 損害賠償請求控訴事件)。

(要旨)

「報道写真等をスマートフォンの写真1枚に写り込む限度で撮影したものを引用して、ツイッターの本文を投稿するときは、社会通念上、投稿本文が主、本件各写真(引用)が従の関係にあると認められるべきことは前記のとおりである。もともと、本件各写真(引用)は、報道写真として関連する新聞記事と一体となって時事の出来事を報道するために作成されたものであり、独立して鑑賞の対象となるものとして公衆に提示されていたわけではない。」として著作物の利用が引用に該当しないと判断されました。

著作権法32条1項は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」と規定する。そして、この規定の文言によれば、著作物の全部又は一部を著作権者の承諾を得ることなく自己の作品に含めて利用するためには、① 利用される側が公表された著作物であること、② 当該著作物の利用が引用に該当すること、③ 当該引用が公正な慣行に合致すること、④ 当該引用が報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものであること、の各要件を満たすことを要することになる。

①の公表著作物性の要件以外の各要件を検討すると、②の「引用」については、引用する側の作品に接した一般人が、引用されている部分を認識し得ることが前提となることから、一般には、利用する側の作品から、利用される側の著作物を明瞭に区別して認識することができることが必要であり、また、利用する側の作品と、利用される側の著作物の間に、利用する側が主、利用される側が従という主従関係があることを要するものと解するのが相当である。ただし、この主従関係も、利用する側の作品と利用される側の著作物との量的な比較のみにより形式的な主従関係を判断するの
ではなく、利用する側の作品や利用される側の著作物の性質、引用の目的、引用の方法や態様等の様々な要素を考慮した上、社会通念に照らし、実質的な主従関係を判断すべきものであり、その場合には、後記④の「引用の目的上正当な範囲内」の判断とも一部重なることになる。また、③の引用が「公正な慣行」に合致すること、すなわち、引用して利
用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであることについては、「公正な慣行」が、著作物の属する分野や公表媒体等によって異なり得ることから、当該分野や公表媒体等における引用に関する公正な慣行が存在するのであれば、引用して利用する方法や態様が当該慣行に合致すると認められるかにより判断され、これが存在しないのであれば、社会通念上相当な方法等によるものと認められるかにより判断されるものと解される。この場合において、利用される側の著作物の出所が明らかにされていることは、当該公正な慣行又は社会通念上相当な方法等の一要素として考慮され得るものと考えられる。さらに、④の引用が「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内」で行われるものであること、すなわち、引用部分が、引用の目的との関係において正当な範囲内であることについては、引用の目的の内容及び正当性、引用の目的と利用される側の著作物との関連性、利用される側の著作物の性質、引用された範囲及び分量、引用の方法及び態様、利用する側が得る利益及び利用される側が被る不利益の程度等を考慮し、前記著作権法の目的及び規定の趣旨を踏まえ、総合的に評価するほかはない。

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