識別力が否定された事例NO.10

拒絶査定不服審判で商標法第3条第1項第3号の識別力がないとして拒絶審決が出された不服審判請求事例2件を紹介します。相変わらず識別力の判断が厳しいです。

(1)「土の職人が選んだ」の文字を標準文字で表してなり、第1類「土壌改良剤,肥料」を指定商品とした事例

各種業界において、「特定の分野の技術者又は専門家が選び抜いた(もの)」を表す文字として、「職人が選んだ」の文字が記述的に使用されている実情もうかがえる。そうすると、本願商標に接する取引者、需要者は、「農業・園芸用の土壌の専門家が選び抜いた(もの)」と理解、認識し、その指定商品との関係においては、本願商標は、単に商品の品質等を表示するにすぎない。よって、本願商標は、その指定商品について、商品の品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というのが相当である。
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。

(2)「MASS BALANCE FILM」の文字を標準文字で表してなり、第16類「ラミネート加工した包装用のプラスチック製フィルム及びプラスチック製袋」等を指定商品とした事例

本願商標は、「MASS BALANCE FILM」の文字を標準文字で表してなり、その構成中「MASS」の文字は、「大きさ、量、かさ、質量」の意味を、「BALANCE」の文字は、「釣り合い、平均、均衡、調和」の意味をそれぞれ有する英単語(すべて出典は、株式会社研究社「新英和中辞典第7版」)であるところ、「MASS BALANCE」と一連に表したときは、「物質収支」、つまり、「原料から製品への加工・流通工程において、ある特性を持った原料(例:バイオマス由来原料)がそうでない原料(例:石油由来原料)と混合される場合に、その特性を持った原料の投入量に応じて、製品の一部に対してその特性の割り当てを行う手法のこと」を意味するものとして、別掲のとおり、広く使用されている「マスバランス(物質収支)」の欧文字表記と理解されるものである。また、原審提示の情報に加え、別掲の参考情報にもあるとおり、「マスバランス(物質収支)」は、従来の化石資源を一気にバイオマス由来原料に置き換えることが技術的に困難とされる中、生産者に再生可能原料の使用を促し、再生可能な資源を普及させる重要な手法として注目されており、既に紙製品やパーム油、電力業界で一般に採用されてきたところ、近年は特に、化学業界において、循環型経済への移行を図る有効な手だてとして採用する企業が増加していることが確認できる。そして、実際に、本願の指定商品に関連する分野においては、原料段階での生物由来成分を完成した化学品に当てはめる手法のことを「マスバランス(物質収支)」と称している実情が認められ、そのうえ、構成中の「FILM」の文字は、「(表面にできる)薄皮、薄膜、皮膜」等の意味を有する英単語(前掲書)であって、本願の指定商品との関係では、商品の品質、形状を表示する文字と認められるところ、「マスバランス(物質収支)」方式によるフィルムが生産されている事実も確認できることから、本願商標は、全体として、「マスバランス(物質収支)方式により生産されたフィルム」程の意味合いを認識させるものといえる。そうすると、「マスバランスフィルム」の欧文字表記と理解される本願商標をその指定商品に使用するときは、これに接する取引者、需要者は、当該商品が「マスバランス方式により生産されたフィルム、マスバランス方式により生産されたフィルムを使用した商品」であることを認識するにとどまり、本願商標は、単に商品の品質、生産方法を普通に用いられる方法で表示するにすぎないものというべきである。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です