識別力が肯定された事例NO12
「AFURI」の文字について第33類「清酒、焼酎、合成清酒、白酒、直し、みりん、洋酒、果実酒、酎ハイ、中国酒、薬味酒」を指定商品とした登録商標について、無効審判で有効審決が出され、審決取消訴訟でも識別力があると認定された事件を紹介します(令和7年(行ケ)第10038号 審決取消請求事件)。本件では、登録商標に基づいて権利行使をしたからといって社会的想到性を欠くものではないと判断されていることから、自社のブランド名については戦略的に商標登録出願をすべきことの重要性も伺えます。
(要旨)原告は、日本酒取引において「地酒」という文化が存在し、その取引の実情に鑑みれば、需要者は、商品である日本酒に付された「阿夫利」の語が阿夫利山地域を意味するものと認識し、当該日本酒は阿夫利山地域が産地・販売地であるか、同地域の水を用いた品質であると一般に認識すると主張する。しかし、仮に、日本酒取引において原告主張の「地酒」文化に基づく上記の取引の実情が認められ、取引者・需要者において「AFURI」が「阿夫利」のローマ字による読み仮名であると理解するとしても、上記(3)のとおり、原告主張の阿夫利山地域の通称を指すものとして「阿夫利」の語が掲載されている地図や辞書は存在せず、しかも、「阿夫利」が「大山」ないし「阿夫利神社」(ないし大山阿夫利神社)を指す名称であると理解できる以上、「阿夫利」の語が日本酒の商品に付されていたとしても、取引者・需要者は、「阿夫利」の語が阿夫利山を意味するものと認識し、当該日本酒は阿夫利山にちなんだ商品であると一般に認識するというのが相当である。「阿夫利」の語が、このような阿夫利山自体を指し示すものであるとの認識を超え、阿夫利山地域を指すものとして取引者・需要者に認識されるとする原告の主張は、採用することができない。… 以上により、「阿夫利」の語が、原告の主張する阿夫利山地域の名称であるとは認められず、そのローマ字表記である「AFURI」の文字からなる本件商標は、本件商標の登録査定時において、取引者・需要者によって日本酒を含む指定商品に係る商品に使用された場合に、商品の産地、販売地を表示したものと一般に認識されると認めることはできず、その指定商品について商品の産地、販売地又は品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるということはできない。原告の取消事由1に関する主張は、採用することができない。
被告が「ビール」を指定商品に含む商標を出願していること(甲2の6~8)、被告が「整体」を指定役務に含む商
標を出願していること(甲2の10)は認められるものの、これらは、ラーメン事業において培ってきた既存のブランド戦略の拡張と評価し得るものである。そして、先願主義の原則(法8条1項参照)が採用されている法において、たとえ被告が、他の事業者において「阿夫利」の語を商品(日本酒やビール)や業務(整体)に使用していることを知っていたとしても、このことだけから当該出願が社会的相当性を欠くものと断ずることはできない。

