錯誤無効

民法第95条には、錯誤に基づく意思表示の取り消しに関する規定が定められています。錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである場合に限り、意思表示を取り消すことができるます。今回は、水素がほとんど発生しない製品に関する契約は無効であると主張しましたが、錯誤無効が認められなかった事件を紹介します(令和5年(ネ)第10087号 損害賠償請求控訴事件)。

(要旨) 控訴人は、本件製品はペット又は人の腸内で持続的に水素を発生させること、具体的には24時間以内で本件製品1g 当たり飽和水素水22ℓ(ペット用)又は約15ℓ(人用)に相当する水素を発生させることを前提に販売しており、このような水素が発生しないのであれば、本件製品を購入することはないところ、実際には本件製品はほとんど水素を発生しないものであったとして、甲1契約等について要素に錯誤があると主張する。しかしながら、原判決(17頁~)でも指摘されているように、控訴人が主張する本件物質や本件製品の効能や生体内での作用機序、水素発生量等は、甲1契約等における契約書上で何ら明記されておらず、本件において、当該効能や作用機序、水素発生量等が契約交渉過程において具体的に契約内容として合意されたことを認めるに足りる証拠はない。本件製品の水素発生能に関する控訴人の上記主張は、控訴人が被控訴人KIT代表者に対し、本件製品の販売のためのホームページ原案について確認を求めた際、当該原案には、ペット用につき24時間で水素水(1.6ppm)約22ℓ 分、人用につき同約15ℓ 分との記載があったにもかかわらず、被控訴人KIT代表者はこれらの部分について何ら修正意見を述べなかったといった程度のことを根拠とするものと解され、確かに、そのような経緯があったことは、証拠(乙38、40~43)によって認められる。しかし、これらのやり取りはいずれも本件契約締結後にされたものにすぎない上、こうした宣伝広告文書は最終的には控訴人がその作成に責任を持つべきものであり、被控訴人KIT代表者が修正意見を出さなかったからといって、この一事をもって控訴人主張の上記水素発生量を保証することが契約の内容になっていたと認めることはできない。…そうすると、本件製品の水素発生能につき控訴人が主張するような思い違いがあったとしても、甲1契約等の意思表示の内容となっていないものであり、民法95条1項1号所定の「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」があったとはいえない。また、甲1契約の適用対象となる平成29年法律第44号による改正前の民法95条の解釈としても、錯誤無効の成立は認められ
ない。

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