類否判断を考えてみましょうNO.16
今回も審査基準に沿った当て嵌め事例を紹介します。左(上)の「身体鍛錬器具」(本件意匠)と、右(下)の「身体鍛錬器具」(引用意匠)とは似ていると思いますか?答えは似ていない(非類似)と審決されました。
(当て嵌め)
(1)意匠に係る物品
本願意匠と引用意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は、どちらも、腕立て伏せや懸垂などができる「身体鍛錬器具」であるから、両意匠の意匠に係る物品は、一致する。
2 両意匠の類否判断
ア 共通点の評価
この種物品の分野においては、共通点(ア)上端を正面側に湾曲した2本のパイプを左右に配置して支柱部とし、支柱部を連結するように下端寄りに横のパイプを取り付けて接続部とし、2本の略横長棒状の部材を2本の支柱とそれぞれ直交するように前寄りに取り付けて脚部とし、支柱部の上端に横長のパイプを両側が突出するように取り付けて懸垂バーとし、支柱部の真ん中付近に正面側にクッションを設けた横長のパイプを取り付けて背もたれ部とし、左右の支柱の正面の真ん中付近に水平に突出するパイプを設けてアームグリップとし、左右の支柱の正面の下端寄りで接続部より若干下側と脚部の上面のやや先端寄りを連結するように側面視略角丸鈎状に曲げたパイプを取り付けてプッシュアップバーとしたものが、以下の参考意匠に見られるとおり、本願の出願前から公然知られており、両意匠のみに共通する態様とはいえないことから、格別、需要者の注意を引くものではなく、また、共通点(イ)から共通点(エ)についても、当該物品の分野において、本願の出願前より、ごく普通に見られる態様のものであることから、いずれも、需要者の注意を引くものではなく、これらの共通点が相まっても、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
イ 相違点の評価
(ア)支柱部
本願意匠は、左右の下側のパイプの上端寄りの両横に略円板状のツマミを縦に2つずつ合計8個取り付けているのに対し、引用意匠は、下側のパイプの上端寄りの背面に略短円柱形のツマミを1つずつ取り付けている点、
(イ)脚部
引用意匠は、背面側の先端を正面側と同様にやや外側に屈曲し、支柱部のやや正面寄りに左右の脚を繋ぐ横のパイプを設け、各先端に滑り止め用のキャップを取り付け、上面の正面寄りに略角丸「L」字状に屈曲したハンドルを取り付けているのに対し、本願意匠は、背面側は屈曲しておらず、左右の脚を繋ぐパイプは設けておらず、各先端の底面に滑り止め用の略円盤状の吸盤を取り付け、上面にハンドルは取り付けていない点、
(ウ)背もたれ部
本願意匠は、左右の支柱の背面に略角丸「コ」の字状に屈曲した略円柱形のパイプの先端を取り付け、クッションは略横長角丸長方形厚板状であるのに対し、引用意匠は、左右の支柱の内側の正面寄りに、略角丸「コ」の字状に屈曲した略角丸四角柱形のパイプの後端を両側が前方に突出するよう取り付け、クッションは上方を略アーチ状に形成した略縦長長方形厚板状である点、
(エ)アームグリップ
本願意匠は、略横長円柱形で、背もたれ部のやや下側に取り付け、底面に斜めのブラケットを取り付けているのに対し、引用意匠は、略角丸四角柱形で、背もたれ部の両側の外側に密着状に取り付け、先端に側面視略角丸「L」字状に屈曲したハンドルを設け、上面に略横長長方形厚板状のクッションを取り付けている点、
(オ)プッシュアップバー
本願意匠は、プッシュアップバーの正面の下端寄りに略短円柱形のハンドルを水平に取り付けているのに対し、引用意匠は、ハンドルは取り付けていない点、
まず、相違点(ウ)及び相違点(エ)について、背もたれ部とアームグリップは、当該器具の中心部の最も目に付きやすい位置に形成されているところ、背もたれ部を左右の支柱の背面に取り付け、そのやや下側にアームグリップを別々に取り付けてなる本願意匠と、背もたれ部を左右の支柱の内側の正面寄りに両側が前方に突出するよう取り付け、その外側にアームグリップを密着状に取り付け、さらに先端に側面視略角丸「L」字状に屈曲したハンドルを設けた引用意匠とは、大きく異なるものであり、需要者に別異の美感を与えているものといえるから、相違点(ウ)及び相違点(エ)が、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。また、相違点(イ)の脚部の態様の相違についても、背面側の屈曲の有無、脚を繋ぐパイプの有無、滑り止めの相違、上面のハンドルの有無(本願意匠は、相違点(オ)のとおり、プッシュアップバーの正面にハンドルを取り付けている。)は、これらが相まって、両意匠の脚部全体の視覚的印象を大きく異ならしめるものとなっており、需要者に異なる美感を起こさせるものであるから、相違点(オ)と相まって、相違点(イ)が、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。
一方、相違点(ア)については、部分的な相違であって、意匠全体として見た場合においては、微弱なものであるから、相違点(ア)が、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
ウ 形状等の類否判断
両意匠の形状等における共通点及び相違点の評価に基づき、意匠全体として総合的に観察し判断した場合、共通点(ア)から共通点(エ)は、両意匠の類否判断に与える影響は小さいものであるのに対し、相違点(ア)は、両意匠の類否判断に与える影響は小さいものの、相違点(イ)から相違点(オ)は、両意匠の類否判断に与える影響は大きいものである。したがって、両意匠の形状等を全体として総合的に観察した場合、両意匠の形状等は、共通点に比べて、相違点が両意匠の類否判断に与える影響の方が大きいものであるから、両意匠の形状等は類似しない。


