類否判断を考えてみましょうNO.17
今回も審査基準に沿った当て嵌め事例を紹介します。上の「靴下」(本件意匠)と、下の「靴下」(引用意匠)とは似ていると思いますか?答えは似ていない(非類似)と審決されました。
(当て嵌め)
(1) 共通点
両意匠は、基本的構成態様として、
ア ハイソックスタイプの靴下であって、全体が、足指、甲、足裏、かかと、及び足首から膝下までの下腿の部位から構成して成り、足指、甲、足裏、かかとから成る足先の長手方向の長さは、靴下全体の長手方向の長さの約3分の1である点、
イ 足先の甲の表面を確認することができる開口部を有し、その開口部の大きさは、足の親指大の程度のものであって、その位置は、靴下の甲の前側(足指寄り)である点、
ウ 靴下のつま先及びかかとが、身生地よりも暗調子に表れている点、
が共通する。
(2) 相違点
具体的構成態様として、
カ 正面図において、本願意匠は、足首の付近は漸次細くなるように弧状を形成し、甲は凸弧状を形成し、つま先及びかかとは、足先の身生地に沿ってなだらかに表れているのに対し、引用意匠は、足首はおおむね直線状を形成し、甲は直線状を形成し、つま先及びかかとは身生地から膨出して成る点、
キ 開口部につき、本願意匠は、正面図において開口部が丸くえぐられ、装着時の上面視、だ円形状を表し、その周囲に身生地とは異なる織りの生地(又は、身生地とは別のパーツの生地)から成るリング状の細縁部を形成しているのに対し、引用意匠は、正面図においてV字状にえぐられ、装着時の上面視、両端がとがったアーモンド様の形状を表し、その周囲に身生地とは異なる織りの生地から成るリング状の細縁部を形成していない点、また、引用意匠にのみ、開口部の上半分を囲む暗調子の細線が施されている点、
ク 開口部の位置につき、本願意匠は、足指の上部付近に寄った位置であるのに対し、引用意匠は、甲の前側に位置している点、
ケ つま先及びかかとにおける暗調子の面積比につき、正面図において、本願意匠は、約1:1であるのに対し、引用意匠は、約2:1である点、
が主に相違する。
1 意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は、同一である。
2 両意匠の形状等
(1)共通点の評価
共通点ア及び共通点ウの形状等は、両意匠の基本的構成態様を成すものであるが、そのような特徴を有するものは、靴下の物品分野において、両意匠以外にも例を挙げるまでもなくごく普通に見られることから、共通点ア及び共通点ウが両部分の類否判断に与える影響は小さい。
共通点イにおける開口部は、下肢における静脈瘤(りゅう)やむくみ等を軽減するために用いられる「靴下」の需要者が注意を払う部位であり、一定の共通感を生じさせるものの、両部分のように、靴下の甲の前側(足指寄り)に開口部を有したものは、例えば、本願の出願前に公然知られた登録意匠第1270801号の靴下(別紙第3参照)に表れているように、両部分以外にも見られることから、共通点イが両部分の類否判断に及ぼす影響は限定的である。
(2)相違点の評価
これに対して、
相違点カ及び相違点ケにつき、当該「靴下」の主たる需要者は、弾力性の機能や正しい装着のしやすさの機能をみるため、各部の具体的な形状等について高い関心を持って子細に観察する者であるところ、相違点カ及び相違点ケにおける形状等は、当該需要者が一見して看守できる相違であって、異なる印象を与えるものであるから、両部分の類否判断に及ぼす影響は大きい。
相違点キ及び相違点クにつき、需要者は、むくみ等について何らかの変化が起きていないかどうか確かめるために定期的に観察するための開口部に対して格別の注意を払うことから、開口部の孔の形状が、装着時の上面視、横長の略だ円形状である本願意匠と、両端がとがったアーモンド様の形状である引用意匠は、開口部のリング状の細縁部(本願部分)や上半分を囲む暗調子の細線(引用部分)の有無による相違も相まって、異なる美感を生じさせていることから、相違点キ及び相違点クが類否判断に及ぼす影響は大きい。
(3)形状等の総合評価
両意匠の形状等における共通点及び相違点の評価に基づき、意匠全体として総合的に観察し判断した場合、相違点は、両意匠の類否判断に与える影響が総じて大きいものであるのに対し、共通点は、両意匠の類否判断に与える影響が総じてもなお両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものであるから、相違点が共通点を凌駕している。



