商標の分離観察
図形と文字を含む商標において、図形部分と文字部分とを分離観察すべきか一体観察すべきかによって類否判断が異なります。また、同じ文字部分でも、二段書きにした文字商標について、分離して観察して要部を認定することによって類否判断されることがあります。今回は、図形部分と文字部分とを分離して観察した上で、更に上段文字部分と下段文字部分とを分離観察して要部を認定した不服審判事例を紹介します。
(要旨)
本願商標は、別掲1のとおり、上段左側に、緑色の幾何学図形を配し、上段右側に、太字で横書きした「TRUST」の欧文字(1文字目の「T」の左端部、3文字目の「U」の左上部の先及び5文字目の「T」の右端部に緑色の四角形を配している。)を配し、下段に、緑色で横書きした「あと施工アンカーのトラスト」の文字を配した構成からなるものである(以下、上段左側の図形部分を「図形部分」、上段右側の欧文字部分を「上段文字部分」、下段の文字部分を「下段文字部分」、及び上段右側の欧文字部分と下段の文字部分をまとめて「文字部分」という場合がある。)。
そして、本願商標を構成する図形部分と文字部分とは、いずれも重なることなく間隔を空けて配置され、視覚的に分離して観察されることに加え、観念的な関連性も見いだすことはできないから、これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいいがたく、文字部分と図形部分とは、それぞれ独立して、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るとみるのが相当である。
また、上段文字部分と下段文字部分とは、文字種、文字の大きさ、太さ及び色彩が異なることから、分離して看取できることに加え、上段文字部分は、下段文字部分と比べ太字で大きく表され、看者に強い印象を与えるものである。
さらに、文字部分を一連に称呼したときに生じる「トラストアトセコウアンカーノトラスト」の称呼は冗長である。
そして、上段文字部分の「TRUST」の欧文字が、「信頼。同一業種の企業が資本的に結合した独占形態。信託。」等の意味を有する英単語「trust(トラスト)」(出典:大辞林 第四版 株式会社三省堂)であることから、上段文字部分の「TRUST」の欧文字と下段文字部分中の「トラスト」が同一の称呼を生じるものと理解されるとしても、文字部分全体として特定の観念を生じる等の事情も認められないことから、これらを常に一体不可分のものとして認識しなければならない理由は見いだせない。
以上のことからすれば、本願商標は、その構成中の「TRUST」の欧文字部分のみを分離抽出し、これが本願商標の自他商品の識別標識を表示する要部として認識され、この部分のみを引用商標と比較することが許されるというべきである。
したがって、本願商標からは、その要部の一つである「TRUST」(以下「本願要部」という。)の構成文字に相応した「トラスト」の称呼を生じ、また、「信頼。同一業種の企業が資本的に結合した独占形態。信託。」等の観念を生じるものである。
