均等侵害第5要件

直接侵害が成立しない場合、予備的主張として均等侵害があります。その要件は下記の通りですが、第5要件(意識的除外)が適用されて非侵害となった事件を紹介します(令和6年(ネ)第10068号 損害賠償請求控訴事件)。意見書で引用文献との差異を述べるときに既に侵害品を特定できているのであれば、特許成立性と侵害成立性とを両立させた反論について工夫を凝らす必要があります。

① 非本質的部分
:その相違部分が特許発明の本質的部分ではないこと

 ②置換可能性
:その相違部分をその製品におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達成することができ、同じ作用効果を奏すること

③ 製造時の置換容易性
:その製品の製造時点において、当業者がそのような置き換えを容易に想到できたものであること

④ 想到非容易性
:その製品が、特許発明の特許出願時点における公知技術と同一ではなく、また当業者がその公知技術から出願時に容易に推考できたものではないこと

 意識的除外
:その製品が発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情もないこと

(要旨)原告は、平成23年5月18日付け拒絶理由通知を受けたため(乙15の1)、同年7月25日付け手続補正書とともに同日付け意見書(乙15の3)を提出し、同意見書において、拒絶理由に挙げられた引用文献3(特開平11-61101号公報)及び引用文献4(特開2000-230376号公報)について、引用文献3の地糸の経糸・緯糸及びパイル糸の各径を算定すると、前者が後者よりも太いこと、本件特許の出願に係る発明は、地糸の経糸・緯糸の径がパイル糸の径よりも太いとパイル糸の間隔をトナー5 の漏れを防ぐために十分に狭くすることができず、パイル糸の根元からトナーの漏れが発生しやすくなるという問題点を見出し、当該問題点を解決するために、地糸の経糸及び緯糸の径をパイル糸の径よりも細くする構成としたものであり、当該特徴的な構成により、パイルの根元からのトナー漏れを防ぐという顕著な効果を奏するなどと説明した上で、このような構成の記載も示唆もなく、前記技術的思想の存在しない各引用文献に記載の発明から本件特許の出願に係る発明に想到することはできないなどと述べていたことが認められる。

原告が、構成要件1C中の本件相違点に係る部分(地糸の経糸・緯糸の径がパイル糸の径よりも細いこと)が本件各訂正発明の特徴的かつ不可欠な構成であることを強調していたことに照らすと、原告は、被告製品のように当該部分の構成が構成要件1Cと異なるものについては特許請求の範囲から意識的に除外したもの、すなわち、被告製品のような構成が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認し、又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと理解されてもやむを得ない。したがって、本件においては、均等侵害の第5要件に関し、構成要件1Cを充足しない被告製品が意識的に特許請求の範囲から除外されたという特段の事情が認められるから、原告の主張を採用することはできない。

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