商標の冒認出願
商標登録出願は、特許出願の「特許を受ける権利」のように、「商標登録を受ける権利」といったものが存在しません。ですので、真正な登録名義の回復を原因とする移転登録手続請求権といったものがないと判決された事件を紹介します(令和7年(ネ)第10003号 商標権移転登録手続請求控訴事件)。このように、大切な商標を守るためには、商標登録出願をしておくことが大切です。
(要旨)本件における原告の請求は、いずれも本件合意があったことを前提とするものであるところ、まず、本件各商標権の移転登録手続請求について
は、我が国の商標権は設定の登録により発生する権利であり(商標法18条1項)、特許法と異なり、商標法中には、商標登録を受ける権利に関する規定や、冒認出願者に対する権利移転請求権を定めた規定は存在しない(特許法74条1項、123条1項6号参照)。したがって、仮に本件合意があったとしても、原告が本件合意に基づき我が国の商標権を取得することはなく、原告がAに対し冒認出願を理由に本件各商標権の移転登録手続請求権を取得することもない(その他、原告とAとの間で、本件各商標権の移転に関する個別の合意がされた旨の主張立証もない。)。そして、原告が本件各商標権を一度も取得したことがない以上、真正な登録名義の回復を原因とする移転登録手続請求権が認められる余地もないというべきである。したがって、本件各商標権の移転登録手続請求は、そもそも理由がない。その余の各請求についても、本件合意の存在が認められない以上、その余の点について判断するまでもなく、原告は、被告に対し、不当利得返還請求権及び不法行為に基づく損害賠償請求権のいずれも有しない。