明細書の参酌

特許法70条2項には、特許請求の範囲の用語の解釈には、明細書等を参酌することができる旨の記載があります。ただし、基本的には特許請求の範囲の記載で判断して、正しく技術的意義を解釈する際に特許法70条2項が適用されます。今回は、用語の解釈によって非侵害となった事件を紹介します(令和7年(ネ)第10004号 特許権侵害損害賠償請求控訴事件)。

 (要旨)特許請求の範囲の技術的範囲を解釈するに当たり、特許請求の範囲の用語、文章を理解し、正しく技術的意義を把握するためには、明細書の発明の詳細な説明の記載等を検討する必要がある。これは、当該特許発明が有効なものとして成立している以上、発明の詳細な説明は実施可能要件を満たしており、特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明の記載との関係で特許法36条のいわゆるサポート要件を満たしているとされているのであるから、明細書の記載及び図面を考慮して、上記特許請求の範囲の用語の意義を解釈すべきとするものであり、特許法70条2項も、その旨を規定するものと解される。

そうすると、構成要件Fの「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール」は、感応信号に従ってバックライトモジュールをオンとオフの状態にすることができるとともに、感応信号に従ってオン状態にした後、再度の感応信号がなくても一定時間後にオフ状態にするまでの間隔、すなわち発光持続時間、を可変とすることができる制御モジュールを意味するものと解される。これを被控訴人各製品についてみると、被控訴人各製品は、原判決別紙被控訴人製品説明書のとおりの構成を有するところ、これらによれば、被控訴人各製品が、開閉に係る磁気を感知するタイミングとは関係なく、発光持続時間を可変に調整し制御する制御モジュールを備えるものとは認められない。そうすると、被控訴人各製品は、本件発明の構成要件Fにおける「前記バックライトモジュールをオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール」に該当するものを備えないから、本件発明の構成要件Fを充足しないものと認められる。

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