分離観察(商標)

結合商標の図形部分とも自分を分離して観察することが取引上不自然でないとして、文字部分のみで類否判断された事件を紹介します(令和6年(行ケ)第10107号 審決取消請求事件)。

複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁昭和38年判決、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ))

(要旨)上段に細い円で描かれた枠の中に、長い2本のひげを生やし、風になびく長い鬣(たてがみ)、細い目、長い口を有する細長い顔と、四足動物のような体を有する動物の一部分を、雲の上を駆けるような構図で描いた特徴のある図形(以下「図形部分」という場合がある。)と、そのすぐ下に、図形部分の輪郭の左右の幅に合わせて、「キリンフーズ」の片仮名文字を一連に配して(以下「文字部分」という場合がある。) 全体として同色をもって表されるものである。本件商標の構成中の文字部分は、上記のとおり「キリンフーズ」と一連に表記してなるものであるところ、このうち「キリン」の部分は、「きりん【麒麟】①中国で聖人の出る前に現れるという想像上の動物。形は鹿に似て大きく、尾は牛に、蹄は馬に似、背毛は五彩で毛は黄色。頭上に肉に包まれた角がある。・・③ウシ目(偶蹄類)キリン科の哺乳類」の意味を有する語であり、「フーズ」の部分は、食品を意味する英語である「foods」を片仮名表記したものである(広辞苑第7版。甲16)。本件商標の構成中の図形部分は、その下の文字部分の高さや全体の幅からすると、本件商標の全体構成において5分の4ほどを占める大きさで表されているが、本件商標の図形部分と文字部分とは、相互に重なり合う部分もなく、上下に明確に分かれていること、文字部分の横幅は、図形部分の横幅とほぼ同じであって、文字部分が図形部分に埋没した印象を与えることもなく、「キリンフーズ」の文字が明瞭に認識できる大きさであることから、両者は視覚的に分離して看取されるものである。これらによると、本件商標は、図形部分と文字部分とからなる結合商標と理解されるところ、図形部分と文字部分とは、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められず、図形部分と文字部分とが一体として看取されるといった必然性も見出せないから、本件商標からは、文字部分を抽出し、当該文字部分だけを各引用商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です