虚偽告知

不競法2条1項21号は、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」が不正競争に当たる旨規定しています。抗告人の債権者製品が特許権を侵害する旨を厚労省等に告知する行為が、抗告人の営業上の信用を害するか否かが争われ、仮処分申し立てが却下された事件を紹介します(令和7年(ラ)第10003号 仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件)。

(要約)医薬品の製造販売の承認は、厚生労働大臣が、医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保並びにこれらの使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止のために必要な規制として、薬機法により与えられた権限と責任に基づいてする行政処分であって、自由競争が行われる取引社会における取引とは明らかに性質が異なる。そして、厚労省等が、医療用後発医薬品(バイオ後続品を含む。以下「後発医薬品」という。)の承認審査に当たり、既承認の医療用医薬品(先行バイオ医薬品を含む。以下「先発医薬品」という。)と後発医薬品との特許抵触の有無を確認するため、先発医薬品の有効成分に係る物質特許又は用途特許の特許権者等(以下「先発医薬品の特許権者等」という。)に対して、医薬品特許情報報告票をPMDAに提出するよう求めるほか、具体的な承認審査の場面において、必要に応じて、先発医薬品の特許権者等に補足説明を求めることは、厚生労働大臣がその権限を適切に行使する前提としての行政処分に先立つ情報収集行為である。そこでは、厚労省等において、後発医薬品の申請者の経済的価値に対する社会的評価を形成することが想定されているとはうかがわれない。また、厚生労働大臣は、後発医薬品の承認審査において、先発医薬品の特許権者等からの提供情報だけでなく、諸般の事情を総合考慮し、自らの権限と責任においてその判断をするものである上に、先発医薬品の特許権者等から提供される情報は一般に公開しないとされているのであるから、同情報が市場に伝ぱして取引社会における申請者の経済的価値に関する社会的評価が低下するおそれがあるということもできない。以上によると、先発医薬品の特許権者等が、厚労省等に対し、後発医薬品の製造販売等が特許権を侵害する旨の情報提供をすることは、不競法2条1項21号の「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知」することには当たらないと解するのが相当である。

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