特許発明の公知性
特許法第29条第1項第1号には、「特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明」は特許を受けることができない規定があります。今回は、この公知性が争われ、特許法第29条第1項第1号に該当するとして無効となった判決を紹介します(令和5年(行ケ)第10034号 審決取消請求事件)。秘密保持義務を負わせることなく複数人に配布したことを立証できれば、公知であると認定されます。
(要旨) 被告(当時の代表者はC)は、平成22年11月25日、タイキとの間で、「購買基本契約」(甲140の2。第28条には、「基本契約、個別契約または貸与書類等により知り得た相手方の業務上の秘密事項」に関する秘密保持条項があり、同条項上「秘密事項は書面で特定されるものとする。」とされている。)を締結し、平成23年1月4日、タイキに対する納品を開始した。タイキへの納品物は、資生堂向けのパフ用立毛シートであり、大量生産を要するものであったことから、タイキ、被告及び新栄染色の間で、大量生産のための染色工程の改善の取組が行われた。その過程で、新栄染色は、タイキからの依頼により「加工工程と条件の再確認」と題する書面に、加工工程や条件を記載した平成23年10月19日付け文書(甲101の2。甲53の1の手書き文字部分を除いたもの。以下「甲53の1文書」という。)を作成した。甲53の1文書は、同月20日に、被告の大阪営業所からタイキに対しファクシミリ送信されたほか、この頃、タイキ、被告及び新栄染色の従業員ら数名に対し、守秘義務を負わせることなく配布された。タイキからは、甲53の1文書記載の工程について、条件変更の提案がされた。なお、甲53の1文書には、当時、新栄染色で行われていた工程が記載されているが、被告又はタイキが特に秘密事項として特定したとの記載はない。
平成25年頃以降、新栄染色の蒸し機に不具合があり、新栄染色から納品された製品の品質が問題となったことから、被告代表者であったCは、新栄染色以外の業者に、染色加工を依頼することを検討するようになった。Cは、平成26年7月頃、染色工程等を記載した手書きの文書(甲2(「目録①生産工程説明書(平成26年6月17日付)」と記載された部分を除く。 、甲98写真3左頁、甲107。以下「甲2文書」という。)を作成し、守秘義務を負わせることなく丸平染色のF専務に交付し、ベルベット織りの立毛シートの製造方法を説明して、染色工程の委託を打診した。Cは、甲2文書を、守秘義務を負わせることなく、株式会社ウエマツ及びYK化工にも渡した。
前記2を前提として検討すると、甲53の1文書は平成23年10月頃、甲2文書は平成26年7月頃に、それぞれ公知となっていたものと認められる。