トレーニング器具
スポーツジムでよく見かけるトレーニング器具について、均等第1要件(異なる部分が本質的部分でないこと)を充足しないため、非侵害であると判決された事件を紹介します(令和5年(ネ)第10083号 特許権侵害差止請求控訴事件)。特許権侵害訴訟事件は、下記のように構成要件ごとに分説して、被告製品と対比判断した上で、異なる部分があれば均等侵害に該当するか否かが争われます。
A 着座部と、
B 負荷の大きさが調整自在の負荷付与部と、
C 前記着座部がその中央位置となるように所定の間隔をあけて鉛直方向に延びる2本の案内支柱と、
D 該2本の案内支柱にその一端側が上下動自在で且つ水平方向に回転自在にそれぞれ嵌合された2つの昇降揺動部材と、
E 該2つの昇降揺動部材の他端側に鉛直方向に軸支された軸と連結して該昇降揺動部材の下方に水平方向に回転自在に設けられた把持部と、
F 一端が前記負荷付与部に連結され、他端が前記昇降揺動部材の案内支柱の嵌合位置よりも他端側に連結され、方向転換案内車に巻回され、前記負荷付与部の負荷によって前記昇降揺動部を上方向に付勢する引張部材と、
G 前記昇降揺動部材内において前記引張部材の他端側と連結して前記負荷付与部により把持部の前記軸を中心とする回転に負荷を与えるように設けられ、前記把持部の前記軸を中心とする回転運動を伝達する回転伝達部と、該回転伝達部により伝達された回転運動を前記引張部材の他端側と連結している摺動軸の上下動に変換するクランク機構部と、を具備する負荷伝達部と、
を具備したトレーニング器具。
(要旨)控訴人は、本件発明の作用効果のうち「使用者が『弛緩』と『伸張』の動作を加えながら適切な『短縮』のタイミングを出現させることができ、各筋肉群が『弛緩-伸張-短縮』のタイミングを得て、連動性よく動作を行うことができること」については、構成要件Gの「把持部を水平方向に軸回転させて負荷付与部の負荷を引き上げる構成」がなくとも、「昇降揺動部材を外側に広げる動作に対し負荷付与部による(反対方向の)回転付勢力が働く構成」すなわち「昇降揺動部材を外側に開く動作
により負荷付与部の負荷が引き上げられる構成」(控訴人主張の「てこの原理」の構成)のみにより奏することができるから、構成要件Gは本件発明の本質的部分ではない旨主張する。…本件明細書の上記記載によれば、本件発明のトレーニング器具において、把持部の軸回転動作は、肩と腕の「弛緩」、肩甲帯付近等の筋肉の「伸張」に加え、軸回転動作に負荷を与える構成要件Gの構成による両腕を引き下げる初動作(両腕の筋肉の「短縮」)における負荷の減少という効果を奏し、これにより「弛緩」と「伸張」の動作を加えながら適切な「短縮」のタイミングを出現させることが可能となり、各筋肉群が「弛緩-伸張-短縮」のタイミングを得て、連動性よく動作を行うことができるものと認められる。…したがって、「昇降揺動部材を外側に開く動作により負荷付与部の負荷が引き上げられる構成」のみが本件発明の本質的部分であり、把持部の軸回転動作に負荷を与える構成要件Gの構成が本件発明の本質的部分ではないとする控訴人の主張は、採用できない。