技術的意義
特許侵害訴訟では、各構成要件の技術的意義が明細書等の記載から検討されます。今回は、明細書の記載から、転動体が間隔調整できる構成であると認定され、保持器のある軸受に該当しないと判断された事件を紹介します(令和4年(ワ)第18830号 損害賠償請求事件)。
(要旨)本件発明1においては、転動体に対して公転速度の加減を行って転動体同士の間隔を調整し、本件発明1の効果を奏しているのであるから、本件発明1は、個々の転動体に対して公転速度の加減を行うことができ、その速度の加減に基づき転動体同士の間隔を調整できてその「競い合い」を防ぐ構成を前提としているといえる。したがって、構成要件1-Aの「転送路の間に転動自在に介挿させた複数の転動体により構成され」に該当する構成は、個々の転動体に対して公転速度の加減を行うことができ、それに基づき転動体同士の間隔を調整できる構成のものであると認められる。ここで、軸受には、転動体同士の間隔を一定に保持する保持器を有するものがあるところ、このような構成の軸受では、転動体同士の間隔は保持器によって保持されているのであるから、本件発明1と異なり、複数の転動体に対する公転速度の加減を行った上で、それに基づき転動体同士の間隔を調整するということはできない。本件明細書にも、転動体同士の間隔を一定に保持する保持器を有する軸受について、本件発明1の構成をとることによって、上記のような本件発明1の効果を奏することとなることについては、記載も示唆もない。したがって、転動体同士の間隔を一定に保持する保持器を有する軸受は、構成要件1-Aにおける「転送路の間に転動自在に介挿させた複数の転動体により構成され」との構成に該当しないというのが相当である。