債権の消滅時効
民法166条1項1号には、債権の時効消滅の規定があり、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき」には、債権が消滅します。今回は、商法512条に基づく報酬請求権の時効消滅が争点の一つとなった事件を紹介します(令和5年(ネ)第10060号 損害賠償請求、同反訴請求控訴事件)。時効の起算時の認定は事案ごとに異なりますが、本件では書籍の出版がなされないことが確定した時点であり、それまでの作業に関する報酬請求権が認められました。
(要旨)原告は、被告に対し、商法512条に基づく本件報酬請求権の一部について、当審の口頭弁論において陳述された令和5年7月25日付け準備書面及び同年11
月11日付け準備書面により、消滅時効を援用する旨の意思表示をした。被告は、本件書籍の出版のために行った作業についての報酬を請求しているところ、出版のための作業に対する対価は、出版社が自ら出版する場合には、通常、書籍の売上から回収されるものであって、それ以前に著者に報酬の支払を求めることはない。したがって、本件報酬請求権について権利行使することが可能となったのは、原告と被告との間の交渉が決裂して本件書籍の出版がされないことが確定した時点であり、具体的には、原告代理人弁護士から、被告に対し、本件予告の削除を要求する内容証明郵便(通告書。甲1)が被告に到着した令和2年12月17日以降であるというべきである。したがって、被告が原告に対し、令和5年6月19日付け控訴理由書により商法512条に基づく報酬請求をした時点(原告が同文書を受領した同月22日)においては、民法166条1項1号所定の5年の時効期間は経過していないので、本件報酬請求権が時効により消滅したとは認められない。