先使用権(商標)の周知性
商標法第32条には、先使用権と呼ばれる規定があり、他人の商標登録出願前に使用しており、周知性の要件等を満たしていれば、他人の登録商標を使用することができます。今回は、周知性の要件を満たしていないとして、先使用権が否定された判決を紹介します(令和4年(ワ)第4903号 商標権侵害差止等請求事件)。先使用権の周知性は比較的緩やかに判断されますが、他の地域にも宣伝広告をしている他の会社の事例をもとに、周知性が認められる範囲が広げられました。
商標法第32条第1項「他人の商標登録出願前から不正競争の目的でなく、指定商品や役務についてその商標を使用していた場合、その商標が需要者の間に広く認識されているときは、継続してその商標を使用する権利を有する」
(要旨)ある標章につき先使用権が認められた場合、未登録でありながら、登録商標が有する禁止権の効力を排除して当該標章の使用が許されることになり、商標権の効力に対する重大な制約をもたらすことになる。かかる重大な制約に鑑みると、法32条1項前段にいう「需要者の間に広く認識されている」の地理的範囲につき、法4条1項10号におけるものよりも緩やかに解する余地があるとしても、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するウェブサイトにおける「業種別開業ガイド」の「葬祭業」のページにおいて「斎場事業は、商圏範囲が2キロメートル、人口3万人に1会館を1つの目安とする。」と記載されていること(乙25)をもって、葬儀会社の商圏が半径2km程度であるとして、被告標章につき本件会館を中心として半径2km程度の範囲で周知されていれば足りると判断することは相当ではない。前記認定の事実によれば、本件会館における平成28年から令和2年までの葬儀の全施行件数(567件)のうち、葬儀申込者の居住地が半径2km圏内に存在する件数が約82%(464件)を占めている(認定事実(2)イ)が、上記圏外の件数が2割弱も存在すること、みと大協が近隣地区のみならず大阪地域ないし東大阪・八尾の相当程度広い地域を対象とした宣伝広告活動も行っていたこと(認定事実(5))を考慮すると、みと大協が被告標章と同一の「久宝殿」との標章をその業務(葬儀業)に使用していた地理的範囲、おおむね東大阪市及び八尾市の全域(本件会館から最大で約10km圏内に相当する。乙169)と考えられるから、先使用権が認められるための要件としての周知性についてはその範囲において検討されるべきである。

