誤訳訂正
外国の特許出願を日本に移行する際、外国語書面出願として特許出願をします。この外国語書面出願は、原文を日本語に訳す必要があり、誤訳があった場合に訂正することが可能です。今回は、誤訳の訂正が認められず、審決が取り消された事例を紹介します(令和6(行ケ)10100 審決取消請求事件)。明細書全体的に使用されている同じ原語(今回の場合は「 linear」)は、同じ意味を持った日本語に訳す必要があり、明細書の他の部分の記載を参酌することは基本的に許されません。
(要旨)、訂正事項7の訂正前の「直線的」との記載の原文は「 linear」であるところ、これを「直接的」の誤訳であるとして、その訂正を求めることは、誤訳の訂正の要件を充足せず、訂正事項7は特許法134条の2第1項ただし書き2号に定める誤訳の訂正には当たらないと認められる。(なお、本件明細書等の段落【0008】には、本件訂正に係る「直接」の語のほかに、本件訂正と関連しない部分に「子供の体に直接衝撃を与えない」との記載があり、この部分の「直接」に該当する部分の原文は、「unmittelbar」である。また、被告が本件訂正請求書で訂正事項3及び訂正事項5について参照した(前記2⑵イ(イ)、同ウ(イ))段落【0019】に2か所ある「直接」の語、すなわち「子供に直接影響を及ぼす」と「子供への直接のエネルギ伝達」の「直接」は、いずれも「unmittelbar(e)」が原文であり、これらはいずれも本件訂正の対象となっていなかった。このように原文(WO2013/189819)の「unmittelbar(e)」を「直接(的)」、「linear」を「直線的」と訳していたものとして本件明細書等の記載は整合が取れていたものである。)。
本件審決は、訂正事項7の判断において(本件審決第2の2⑵)、別紙1審決書(写し)8頁36ないし38行目においては、本件該当原文に「前記の力方向転換装置が、衝突の際に発生し得る横からの力、通常は子供の体に直線的に向いている力の方向を変えて、シートシェルの中に導入することが記載されている。」(下線は判決で付記)としながら、その一方で、同9頁5ないし9行目では、「以上により、原文の3ページ9行~13行(判決注:本件該当原文)の記載によれば、『側面衝突保護部は、一例として、クラッシュゾーンとして、または力方向転換装置としても働き、衝突の際に発生し得る横からの力を子供の体に直接的に伝達するのではなく、子供の体のそばを通り過ぎて、減衰特性を有するシートシェル内に導く』ことは明らかである。」(下線は判決で付記)として訂正を認める判断をしている。 しかし、本件審決の上記記載のうち前者は、子供の体に直線的に向いている力の方向を変えて、シートシェルの中に導入すること、すなわち力の方向を変えることを意味しているのに対し、後者は、力が、中間に隔てるものがなくじかに子供に伝わるのではなく、シートシェル内にじかに伝わること、すなわち力がじかに伝わる対象を変えることを意味していると認められ、両者の意味は異なる。したがって、前者の事項が本件該当原文に記載されているとしながら、本件該当原文には後者の事項が記載されているものとして、誤訳の訂正を理由に訂正を認めるのは、理由に齟齬があるというべきである。…明細書の記載の訂正が誤訳の訂正に当たるか否かを判断するために必要なのは、訂正の対象となっている当該記載部分に該当する原文の記載部分の意味、訂正前の当該記載部分の意味及び訂正後の当該記載部分の意味であって、訂正の対象となっている当該記載部分以外の明細書の記載を参照する余地は基本的にないというべき

