特許用語「嵌合」

特許明細書には、「係合」や「嵌合」のように特許用語が用いられることが多いのですが、今回は、この「嵌合」の解釈が争点の1つになった事件を紹介します(令和2年(ワ)第25892号 特許権侵害に基づく差止等請求事件)。「嵌合」はぴったりはまる時のみにしか機能が発揮できない場合に使用し、それ以外には「係合」という用語を使うべきだと思います。

(要旨)「嵌合」は、特許技術用語集によれば、「to fit into 形状が合った物を嵌め合わせること。」とされて、例として、「(例)受け孔と突起が嵌合する。凹部に凸起が嵌合して部材が位置決めされる。」と記載されている(乙13)。また、広辞苑(第7版)においては、「嵌合(かんごう)」の項目には、「かんごう【嵌合】⇒はめあい」と記載され、「嵌合(はめあい)」の項目には、「(機)軸が穴にかたくはまり合ったり、滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係をいう語。かんごう。」と記載されている。また、「嵌める(はめる)」の項目には、「②くぼみに入
れて固定する。ある形のものに、ぴったり入れる、または、かぶせる。」と記載され、「嵌まる(はまる)」の項目には、「⑥しっくりと合う。ぴったりとはいる。」と記載されている。以上の語句の一般的な意義からすると、「篏合端部」は、一定の形状を有するもので、二つの嵌合端部は、それぞれが相補形状を有して、その形状によって互いにほとんど隙間なくはまり合うものをいうと解される。

被告製品の構成dは、「加熱式デバイスは、加熱式タバコスティックを受け入れるエンドキャップと、エンドキャップの底面に形成されたスリットを貫通してエンドキャップ内まで延びるヒータブレードのベース部上に形成された導電トラックに電力を供給するバッテリーを含むメインボディと、を有する加熱式喫煙デバイスであって、使用者はエンドキャップの底面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入可能であり、該挿入によってヒータブレードのベース部が加熱式タバコスティックに挿入され、加熱式喫煙デバイスのスイッチが入れられると、タバコロッドを加熱するために、ヒータブレードの導電トラックがバッテリーと通電し、」である。そして、構成要件Dの「カートリッジ」に当たり得るのは加熱式タバコスティックであり、当該加熱式タバコスティックの篏合端部に当たり得るのは、加熱式タバコスティックの吸い口とは反対の先端部である。原告らは、エンドキャップに加熱式タバコスティックがぴったりとはま
るから、エンドキャップの底面と、加熱式タバコスティックの先端面は、ほぼ同径の円形であり、「形状が合った物」であり、「エンドキャップの底面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入可能であ」ることは「はめ合わせる」ことである旨主張する。しかしながら、加熱式タバコスティックの先端面の形状とエンドキャップの底面の形状自体はほぼ同径の円形であるとしても、エンドキャップ の底面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入した状態は、加熱式
タバコスティックの先端面がエンドキャップの底面に突き当たって接した状態になっているのみ
である。加熱式タバコスティックの先端面とエンドキャップの底面のそれぞれの形状は、相補形状ではなく、それぞれの形状によって、互いにほとんど隙間なくはまり合うものであるとはいえない

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