私的契約における著作権

ソフトウェア開発業務委託をするにあたり、発注者側と受注者側との間で私的契約(例えば業務委託契約書)を締結するのが通常です。この私的契約には著作権、著作者人格権の規定を入れますが、その適用範囲について争点の一つとなった事件を紹介します(令和5年(ネ)第10073号 著作権等侵害による損害賠償等請求控訴事件)。両社の契約に関係する成果物の範囲に不要な限定を加えないことが重要です。

(要旨)原告と被告トーセは、平成21年6月1日、本件業務委託契約を締結したところ、その第7条第1項には、「成果物及びその関連資料等の著作権は、第5条に規定する成果物の引渡完了をもって原告から被告トーセに移転する」旨の約定があり、第7条第3項には、「原告は、成果物の著作者人格権を被告トーセ及び被告トーセが指定する第三者に対する関係で放棄する」旨の約定があり、第1条第1項には、「被告トーセは、コンピューターソフトの開発業務(以下「本件業務」という。)を原告に委託する」旨の約定があり、第5条第1項には、「原告は、被告トーセからその都度個別に発行される発注書に定める納期に本件業務の成果物を被告トーセが指する場所に納入する」旨の約定がある。まず、本件業務委託契約第7条第1項及び第3項にいう「成果物」の納入に関し、本件業務委託契約第5条は、当該成果物は同条第1項又は第3項の規定に従って被告トーセに納入されるべきものと定めている。このような成果物は、その完成の程度にかかわらず、これに係る著作権又は著作者人格権が生じる可能性がある。第7条の規定は、これらの著作権又は著作者人格権を対象とする趣旨の規定と解されるのであり、同条の文言上も、成果物の程度について限定は付されていないし、被告トーセに納入されるべき本件業務の成果物のうちから一定範囲の物を除外すべき合理的理由も見当たらない。したがって、本件業務委託契約第7条の規定によりその著作権を移転し、又は著作者人格権を行使させない対象となる「成果物」には、原告による本件業務の遂行の結果製作され、被告トーセに納入されるべき物全てが、その完成の程度いかんにかかわらず含まれると解するのが相当である。

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