補正要件(新規事項追加)

特許法17条の2第3項は、「特許請求の範囲等の補正については、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない」旨の規定されています。これは、補正をすることで新規事項の追加をしてはならない規定でして、今回は、この新規事項追加が争点の1つとなった事件を紹介します(令和4年(行ケ)第10112号 審決取消請求事件)。課題を解決するために必要である技術的事項を追加すれば新規事項追加となり、課題の解決に影響を受けない技術的事項を追加しても新規事項追加にならないという判断です。

(要旨)「最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味するものというべきである。そして、第三者に対する不測の損害の発生を防止し、出願当初における発明の開示が十分に行われることを担保して先願主義の原則を実質的に確保しようとするとの見地からすれば、当該補正が、上記のようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものに当たるというべきである(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号同20年5月30日特別部判決参照)。

原告は、①当初明細書等には、センサーの検知信号に基づく構成が具体的に記載されており、他の構成は記載されていないから、センサーの検知信号に基づく構成は単なる例示ではない、②本件審決の判断と異なり、有料自動機内の有料自動機制御部内の動作状態を示す回路の監視結果を示す信号を送信する方法は自明とはいえない、③補正要件違反を認めないとすれば、センサーを含まず、料金収受情報から有料自動機が動いているかを推測する方法が含まれることになる旨を主張する。
上記①の主張について検討すると、センサーの検知信号に基づく構成は、上記自明の前提を具体化した態様の一つではあるものの、本件発明1は「監視して送信」 又は「情報を出力」により巡回せずにランドリー装置の動作状態を確認するという課題を解決するものであるから、センサーの検知信号でなければ課題を解決し得ないということはなく、「監視して送信」又は「情報を出力」するために必要な情報が入力されていれば足りる。当初明細書等にセンサーの検知信号に基づく構成しか例示がないとしても、上記自明な前提に対応する構成がそれのみに限定されることにはならない
上記②の主張について検討すると、本件審決は、有料自動機制御部内にある回路や素子からの信号が、センサー以外の検知信号に基づくものを説明のために例示したものであって、当該例示が自明であることを補正の根拠として評価したものではないから、当該例示が自明であるか否かは、本件補正の適否の判断を左右するものではない
上記③の主張について検討すると、本件補正後の本件発明1は、本件補正前と同様に、入力される信号の種類や「運転中」か「否か」を判断する具体的方法によらず、ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置から管理サーバに「運転中か否かを示す情報を出力」することができていれば課題を解決し得るものであるから、課題解決手段を構成する「監視して送信」や「情報を出力」との構成についての細部である、入力される信号の種類や判断方法といった個別要素は、当初明細書等において当該構成に包括されていたものであったといえる。仮に入力される信号の種類や判断方法として当初明細書等に例示されていないものが補正後の本件発明1に含まれることになったとしても、当初明細書等を総合して得られる技術的事項に対し新たな技術的事項を付加することにはならない。

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