合成樹脂

特許侵害訴訟では、特許請求の範囲の用語の解釈にあたって、技術用語としての一般的な意味が考慮されます。今回は、合成樹脂に合成繊維が含まれるか否かが争点の一つとなった事件を紹介します(令和4年(ネ)第10113号 損害賠償等請求控訴事件)。化学大辞典などに基づいて、合成樹脂は合成繊維が含まれないと判断されました。

(要旨)構成要件Cの「樹脂」が天然樹脂ではなく合成樹脂を意味することは、 本件明細書の記載及び弁論の全趣旨から明らかである。そして、大辞林(甲17)には、合成樹脂については「建築用材・各種部品・食器などに用いられる合成高分子化合物の総称」、合成繊維については「合成高分子化合物を、種々の方法で紡いで繊維としたもの」とあり、「合成樹脂」と「合成繊維」は項目を分けて説明されている一方で、一般的な用例として「合成樹脂」が「合成繊維」を含むとする記載はない
そして、一般的な国語辞典よりは技術用語としての用例に踏み込んでいると解される辞典も含めて更に検討すると、「合成樹脂」の説明として、デジタル大辞泉(乙1)では「合成高分子化合物のうち、繊維およびゴムを除いたものの総称」、世界大百科事典第2版(乙2)では「合成高分子物質のうちで、合成繊維と合成ゴムを除いた、成形品」、化学大辞典3(乙7)では「合成高分子物質の中で繊維、ゴムとして利用される以外のものを総称する。」とあり、「合成樹脂」に「合成繊維」は含まれない旨が明確に記述されている。
なお、化学大辞典6(乙9)の「ナイロン」の項目では、「歴史」の説明箇所でナイロン繊維についての説明が、「用途」の説明箇所で「生産の大部分は…繊維として…衣料用…などの工業用に用いられる。」との説明があるが、「性質」の説明箇所では「プラスチックに用いられるナイロンの性質を次表に示す。」、「ナイロン繊維の性質はポリアミド合成繊維の項を参照」と分けて説明されている。また、化学大辞典8(乙10)では、「ポリエステル」の項目では「アルコールとの重縮合により得られる高分子化合物の総称。…現在工業的に重要なものには次のようなものがある。(1)アルキド樹脂 (2)不飽和ポリエステル樹脂(3)ポリエステル系合成繊維 (4)マレイン酸樹脂」と説明され、また、「ポリエステル系合成繊維」と「ポリエステル樹脂」はそれぞれ別の項目で説明されている。これらの辞書、辞典類の記載によれば、合成樹脂と合成繊維はいずれも高分子化合物であり、合成繊維は合成樹脂を材料とすると認められるものの、「合成樹脂」という用語の一般的な意義としては、合成繊維を含まないとみるのが相当である。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です