自他役務の識別力を欠く商標
商標法第3条第1項第6号には、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」が登録できない規定があります。例えば、色彩のみからなる商標や音商標といった新しい商標についてこの規定が適用されます。今回は、動きの商標に識別力がないとした審決取消訴訟を紹介します(令和7年(行ケ)第10024号 審決取消請求事件)。ダイヤモンドの色彩が変化する動き商標は、宣伝広告を表示したにとどまり、動きの速度は見せる側が人為的にコントロールできるから、自他役務の識別力が否定されました。
(要旨)本願商標は、円形状の多面体にカットされた宝石(ダイヤモンド石)の色彩が無色でクリアな輝きから、青色蛍光の輝きに変化した様子(背景色も青色に変化している。)を表した動き商標である。…本願商標に係るダイヤモンド石の形状(円形状の多面体のカットであり、「ラウンドブリリアンカット」にも近似した、「ラウンド カット」と称されるカット手法で加工された形状)や、「輝く」ないし「クリアな輝き」という特徴、青色蛍光の色彩及び色彩が変化した様子は、蛍光性など色彩や輝きが変化する特性を持つダイヤモンドの特徴として広く知られたものであり、当該色彩の変化を示すことは、その魅力を紹介する動画、画像において広く採択、採用されている一般的な演出手法であるといえる。そうすると、本願商標は、これをその指定役務に使用しても、その取引者、需要者をして、提供する役務に係る取扱商品の品質、特徴、特性や優位性などを表し、当該役務に関心を持たせるための宣伝広告を表示したものと理解するにとどまるものであって、自他役務の識別標識と認識し得るとは認められない。…原告は、自身が特許を有する宝飾箱によってしか、「徐々に変遷する」ベリーストロングの青色蛍光の輝きは実現されないなどとし、本願商標を原告以外の者に使用させる公益上の要請はないなどとも主張する。しかし、宝石の色彩が変化する様子の動きの速度は、見せる側が人為的にコントロールすることができるものであり、これ自体によって自他役務の識別力が生じるものではない。そして、本件において、原告のみが上記色彩の変化を生じさせることができることを認めるに足りる証拠もない。よって、自他役務の識別力を欠く本願商標を原告に独占使用させることは、公益上適当でないといえ、原告の主張はやはり採用することができない。

