不明確

特許法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載は「特許を受けようとする発明が明確であること」という要件に適合するものでなければならないと定めています。今回は、不明確として拒絶査定された不服審判の審決取消訴訟事件を紹介します(令和6年(行ケ)第10076号 審決取消請求事件)。「及び」との用語は各条件を同時に満たす必要があり、(b)と(c)を同時に満たす実施例がないから、不明確と判断されました。

(要旨)原告は、請求項1(a)~(c)の演算順序等の関係は明確であるから、これを否定した本件審決の判断には誤りがあるなどと主張する。そこで検討すると、請求項1における「(a)…(b)…及び(c)…」との記載は(a)(b)の各事項と(c)の事項を接続詞「及び」で接続しており、日本語における接続詞「及び」の通常の用法に照らすと、(a)(b)(c)の各条件を同時に満たすことを意味するものと解される。また、本願明細書の記載においても、上記「及び」が別異の意味であるものと理解し得るような記載はない(段落【0068】等)。加えて、請求項1の実施例(段落【0064】【0066】)として(L)(M)(H)の配合割合が示されている記載(段落【0093】【0094】【表1】)を検討しても、(M)%=0.28/1.69≒0.165≒17%、(L)%/(H)%=0.69/(0.03+0.69)=0.958=96%となるから、(c)の条件を満たしていない((M)%が17%であるならば、(c)の条件中「(M)%が30~70%」の場合には該当せず、「(M)%がゼロ又は100%未満」の場合にのみ該当するから、「100%-(M)%」の引き算の余りは、(L)%/(H)%で、0.4/1~0.6/1となるよう決定して組成することになるはずである。)。当該実施例は、請求項1に記載された本願発明に対応する例となっておらず、請求項1における(a)(b)(c)の各条件の関係性を説明し、又は示唆するものとはいい難い。
そもそも、請求項1において、❶(b)の「(L)%=(H)%=(100%-(M)%)/2」は、「(L)%/(H)%=1」となることを意味する「(L)%=(H)%」との条件を特定していることになる。これに対15 し、❷(c)の「(M)%がゼロ(零)または100%未満である」場合又は「(M)%が30~70%である」場合に、「(L)%/(H)%」が「0.4/1~0.6/1」の範囲となる旨の記載は、これらの場合に「(L)%/(H)%=1」とならないような比率で(L)と(H)を組成することを示すものである。結局、❶と❷を同時に満たす(L)%と(H)%の組合せは存在しない。すなわち、請求項1における「(a)…(b)…及び(c)…」との記載は、(a)(b)(c)の各条件を同時に満たすことを意味するものと解される一方、(b)の条件(❶)と、(c)の条件(❷)が同時に満たされることはない。そうすると、本件補正後の特許請求の範囲請求項1に記載された本願発明の技術的範囲は、これを一義的に理解することはできず、請求項1の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確といわざるを得ない。

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