虚偽の事実を告知流布行為
不競法2条1項21号には、虚偽の事実を告知又は流布する行為が不正競争の一類型と定められています。今回は、特許侵害訴訟において裁判所の判断が示される前に、知的財産権を侵害する旨を告知又は流布する行為が「虚偽の事実」の告知又は流布に該当すると判断された事件を紹介します(令和6年(ワ)第70096号 特許権侵害差止等請求本訴事件、令和6年(ワ)第70274号 不正競争行為差止等請求反訴事件)。このように、特許侵害訴訟の判決が出る前に、特許侵害している旨を告知流布する行為は慎むべきです。
(要旨)本件遮熱ニュースには、「兼ねてより、(株)ライフテックには特許侵害の疑いありと特許事務所より通告していました。ところが、あちこちで特許侵害が見受けられたので特許侵害訴訟を行うもので。」、「今回は、短期間に終わらすため、室内天井や壁に両面テープを使用して直貼りした件に関しての訴訟とします。」と記載されているほか(文言1)、「今回の訴訟で勝利すればサーモバリアを使用している全ての会社が特許侵害の可能性がある事になり」などと記載されている(文言3)。このうち、「兼ねてより、(株)ライフテックには特許侵害の疑いありと特許事務所より通告していました。ところが、あちこちで特許侵害が見受けられたので特許侵害訴訟を行うものです。」(文言1)と記載されている部分は、一般の読み手の普通の注意と読み方を基準とすれば、被告ライフテックが各所で特許権侵害行為をしたものと理解されるものといえる。しかしながら、被告ライフテックによる特許権侵害が認められないことは、上記8において説示したとおりであるから、原告は、特許権を侵害しないという裁判所の判断が示される前に、当該特許権を侵害する旨を告知したものといえるから、上記の送付行為は、不競法2条1項21号にいう「虚偽の事実」の告知に該当するものといえる。そして、特許権を侵害したという虚偽の事実は、被告ライフテックの社会的評価を低下させるものであるから、上記送付行為は、被告ライフテックの「営業上の信用を害する虚偽の事実」の告知に該当する。
(ウ) また、「今回は、短期間に終わらすため、室内天井や壁に両面テープを使用して直貼りした件に関しての訴訟とします。」(文言1)、「今回の訴訟で勝利すればサーモバリアを使用している全ての会社が特許侵害の可能性がある事になり」(文言3)と記載されている部分は、「今回は、室内側の直貼り工法が対象」、「直貼り工法を見たら特許侵害を疑う」といった本件遮熱ニュースのその他の記載と併せてみると、一般の読み手の普通の注意と読み方を基準とすれば、少なくともサーモバリアを室内側に直貼りすれば、特許権侵害行為に該当し、被告山創が、室内天井のみならず、室内側の直貼りにより特許権侵害を行ったものと理解されるものといえる。しかしながら、本件特許は、折板屋根材等の凹凸のある素材に遮熱材を接着手段により取り付けた遮熱構造を対象とするものであるにすぎないから、サーモバリアを室内側に直貼りしたことによって、その態様を問わず、特許権侵害を構成するものではなく、また、被告山創が壁にサーモバリアを直貼りしたことによって特許権侵害を行ったと認めることもできない。そうすると、上記記載のある本件遮熱ニュースを送付した行為は、不競法2条1項21号にいう「虚偽の事実」の告知に該当するといえる。そして、上記の事実は、サーモバリアを販売又は施工する被告らの社会的評価を低下させるものであるから、上記送付行為は、被告らの「営業上の信用を害する虚偽の事実」の告知に該当するというべきである。

