文言侵害と均等侵害
特許侵害訴訟事件において、文言侵害が成立しない場合に備えて、均等侵害を予備的に主張することが一般的です。令和 5年 (ワ) 8403号 特許権侵害差止等請求事件では、構成要件Cの充足性(「前記笠木下部材内に配置され、通気性能及び防水性能を発揮する換気部材」を備えるか)について、文言侵害が成立せず、均等第2要件・第3要件を充足しないことから均等侵害も否定されました。
(文言侵害の否定)
「換気部材」は、それ自体が通気性能を有する必要 があるというべきである。一方、被告製品は、前記(イ)のとおり、傾斜部自体に通 気性能はなく、開口(別紙図面の⑥)から笠木下部材内部に向かう気流を第1水平部下部と傾斜部上端との間に存在する気道方向に通気することにより笠木下部材内部と外部との間の通気が行われるとしても、それは単に通気路を残しているにすぎず、傾斜部に通気性能があると認めることはできない。
(均等侵害の否定)
(第2要件)被告製品を部材とする笠木下換気構造体は、開口⑥及び傾斜部⑤と第1水平部②との隙間から建物内に雨水や虫等が浸(侵)入し得る構造となっているから、構成要件 Cにおける「換気部材」を傾斜部⑤に置き換えた場合、迅速な設置を可能にし、換気量を確保するという本件発明の目的は達成し得るとしても、雨水や虫等の浸(侵) 入を防止し、通気機能及び防水機能の信頼性の高い笠木下換気構造体を提供するという本件発明の目的を達成することができないし、本件発明と同一の作用効果を奏するともいえない。
(第3要件)そもそも本件発明の「換気部材」を被告製品の「傾斜部」に置き換えると、第2垂直部に形成される「複数の開口」(その上下方向の位 置関係に特段の限定はない。)の「傾斜部」より上方部分において、笠木下部材内に直通経路の通気路が形成され、防水性能を保持できなくなる可能性がある。そのため、防水性能を保持するには「複数の開口」と「傾斜部」の位置関係や高さに創意工夫を要することとなるから、当業者が、被告製品の製造等の時点において上記置換えを容易に想到することができたものとは認められない。