先使用権(意匠)

意匠権の先使用権とは、他人の登録意匠出願前から事業としてその意匠を実施していた者が、無償でその事業を継続できる権利です(意匠法29条)。今回は、実施又は準備をしている意匠が類似する意匠も含むか否かが争われた事例を紹介します(令和7年(ワ)第1068号 意匠権侵害差止等請求事件(本訴)同第7435号 差止等請求権不存在確認請求事件(反訴))。意匠は類似の範囲まで権利が及ぶことから、先使用権についても、実施又は準備をしている意匠が類似する意匠も含むと判断されました。

(要旨)意匠権者の権利が登録意匠のみならずそれと類似する意匠にも及ぶこと、先使用制度の趣旨が、主として意匠権者と先使用権者の公平を図ることにあることに照らせば、意匠法29条にいう「実施又は準備をしている意匠」には、意匠登録出願や優先日の時点において先使用権者が事業の実施又は事業の準備をしていた具体的意匠に限定されるものではなく、その具体的意匠に類似する意匠も含むものと解すべきであり、先使用権の効力は、当該類似する意匠にも及ぶものと解するのが相当である。本件においては、前記認定事実(5)のとおり、被告製品2と被告製品3は、その意匠の重要部分が被告製品1と共通しているのであって、原告が本件意匠と被告各意匠がいずれも類似している旨主張していることに照らしても、被告意匠1と被告意匠2及び被告意匠3が類似していると認めることができる。したがって、本件意匠と被告各意匠が類似しているとしても、被告横山基礎工事は、本件意匠を知らないで自ら本件意匠に類似する意匠を創作し、本件意匠権の優先日である平成30年11月6日の時点で、現に日本国内において原告意匠に類似する意匠である被告各意匠の実施である事業をし、又は事業の準備をしていたと認められるから、意匠法29条により、被告各意匠及び事業の目的の範囲内において、本件意匠権について通常実施権を有すると認められる。そうすると、被告横山基礎工事が、被告各製品を製造、輸入、販売等する行為は本件意匠権を侵害しないものと認められる。また、被告JFE商事は、被告横山基礎工事の注文に基づき、もっぱら同社のために被告各製品を輸入し、輸入した被告各製品を同社に販売したものであって、被告JFE商事による前記各行為は、被告横山基礎工事の有する通常実施権を行使したものに過ぎず、被告横山基礎工事の通常実施権行使の範囲内に属するものといえることから、被告JFE商事が被告各製品を輸入、販売等する行為も、本件意匠権を侵害しないものと認められる。

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