重刷
出版権者とは、著作権者から出版権を設定された出版社のことです。今回は、出版権者による重刷行為が著作権侵害にあたることが争点の一つとなった事例を紹介します(令和8年(ネ)第10039号 損害賠償請求控訴事件)。出版権者は、期間の定めがない場合、3年間継続して重刷することが黙示的に合意されていたと認定されました。
(要旨)出版権者は、著作物について慣行に従い継続して出版行為を行う義務を負い(著作権法81条1項1号ロ)、その義務に違反した場合には出版権が消滅するおそれがあるものである。これらの事情に照らすと、控訴人と被控訴人は、本件出版権設定契約において、少なくとも、存続期間の定めのない出版権の法定存続期間である3年間(同法83条2項)は、被控訴人において追加の対価の支払を要せず本件書籍を重刷できる旨を黙示に合意していたものと認めるのが、当事者の合理的な意思に沿うものといえる。これに対し、控訴人は、重刷を行う際には別途印税方式による契約が締結されるのが通例であって、著作権譲渡に匹敵する金額の原稿料が設定されていない限り、初刷時の原稿料の枠内で重刷が可能である旨の合意を認定することは経験則に反する旨主張する。しかし、引用する原判決の認定事実のとおり、被控訴人が本件書籍の制作のために600万円を超える額を支出していることや、書籍の売れ行きを予測することは必ずしも容易ではないことからすると、少なくとも出版権の法定存続期間中、追加の対価の支払を要せずとも重刷できる旨を合意することは、経験則上不合理であるとはいえない。また、控訴人は、控訴人が長らく追加の対価について言及しなかったのは、被控訴人の担当者から著作権の買取りが行われた旨の虚偽の説明を受けてこれを信じた旨を主張するが、控訴人の原審における本人尋問での供述によっても、そのような虚偽の説明が行われた旨を具体的に認定することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

