無効審決取消訴訟(自動車)
「ブレーキ液圧保持装置が故障した場合に、駆動力を大きな状態に維持または駆動力を大きな状態に切り換え、坂道発進時における車両の後退を防止できる原動機付車両を提供する」ことを課題とした特許第3196076号の請求項3が無効とされ、特許権者が審決取消訴訟を提起した事件を紹介します(令和 6年 (行ケ) 10018号 審決取消請求事件)。
原告は、本願の制動保持装置の故障と甲1発明のエンジン自動停止とが異なる課題であり、容易に想到できないと主張しましたが、甲1発明に触れた当業者であれば、甲5記載事項における制動保持装置の異常を検出する動機付けがあるとして、無効が維持されました。論理付けが強引(後知恵?)である気がしますが、判決に至るまでの経緯からこの様な結論になったと思われます。
(要旨)甲1発明において制動保持装置の異常が検知された場合には、上記の甲1発明に おいて求められている状態、すなわち 、制動保持装置の作動によりブレーキ液圧が作用し、もってブレーキがかかった状態を保持できなくな ることは明らかである。そうすると、甲1発明に触れた当業者は、上記の制動保持装置の故障発生という課題を認識し、その課題を解決するため、甲5記載事項における制動保持装置の異常を検出する信号を付加する動機付けがあるといえる。
甲1発明が、エンジン自動停止により発生する問題を、センサ群からの検出信号に基づいて制動保持装置を作動させることにより解消する技術思想を有することに照らせば、制動保持装置の故障を検知し、制動保持装置を作動させることができない故障が生じた場合には、その検知結果をエンジン自動停止条件の一つとして用い、相違点3 に係る「前記故障検出装置によって前記ブレーキ液圧保持装置の故障を検出した時に前記原動機停止装置の作動を禁止する」構成とすることは、当業者が容易になし得た事項といえる。
そうすると、甲1発明に甲5記載事項を適用した際に、本件発明の相違点 3に係る構成を得ることは、当業者の容易に想到し得たものといえる。
【請求項3】 アクセルペダルの踏込み開放時にも変速機において走行レンジが選択されている場合は、原動機から駆動輪へ駆動力を伝達する原動機付車両であって、
前記原動機付車両停止時、前記原動機を停止可能な原動機停止装置と、
ブレーキペダルの踏込み開放後も引続きホイールシリンダにブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置と、
を備える原動機付車両において、
前記ブレーキ液圧保持装置の故障を検出する故障検出装置を備え、
前記故障検出装置によって前記ブレーキ液圧保持装置の故障を検出した時に前記原動機停止装置の作動を禁止することを特徴とする原動機付車両。