動機付けと阻害要因

本願特許の進歩性を否定する際に、引用文献同士を組み合わせる動機付けがあるか、阻害要因があるかについて検討されます。今回は、甲1発明に甲2記載事項を組み合わせる動機付けと阻害要因が争点となった事例を紹介します(令和7年(行ケ)第10023号 審決取消請求事件)。甲1発明に甲2記載事項の化合物を適用して本願発明を満たす可能性があれば組み合わせる動機付けがあり、甲1発明に110度以上の紫外線吸収剤を選択することが好ましいと記載されていても、110度未満の紫外線吸収剤を適用する阻害要因はないと認定されました。

(要旨) 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕⑵イのとおり、紫外線吸収剤を多量に添加すれば紫外線吸収機能は向上するものの、ガラス転移温度(Tg)が大きく低下してしまい(甲55~58)、また、甲1によれば、紫外線吸収剤の違いによりTgの低下の度合いに差があることが明らかであるから、要件aと要件bを両立するには、適切な紫外線吸収剤を用いる必要があるといえ、要件aと要件bを両立できるか否かが不明な化合物K等を甲1発明Aに適用する動機付けがないと主張する。
しかし、前記ア(オ)のとおり、本件の具体的事情の下においては、当業者は、甲2に記載された化合物K、O、Pについて、これらのうちいずれかの紫外線吸収剤を用いて樹脂組成物を製造し、この樹脂組成物から偏光子保護フィルムを作製した場合に、作製されるフィルムが要件aないしcを満たす可能性があるとするのであれば、これらの化合物を甲1発明Aにおける紫外線吸収剤として適用し、作製されるフィルムが要件aないしcを満たすか否かを確認・検討する動機付けがあるといえるから、化合物K、O、Pが要件aと要件bを両立できるか不明であることをもって、これらの紫外線吸収剤を甲1発明Aに適用する動機付けがないことにはならない。

被告は、前記第3の2〔被告の主張〕⑶のとおり、甲1の記載に接した当業者は、甲1におけるトリアジン系紫外線吸収剤としては、単に「優れた紫外線吸収能力」を有するというだけではなく、甲1の目的を達成するため「優れた耐熱性、優れた光学的透明性」を有し、さらに、「加熱溶融加工時の揮発が少なくフィルム製造時のロール汚れも発生しにくい」という性質を有していなければならないと理解するところ、融点が130℃を大幅に下回る化合物K、O、Pを積極的に用いる動機付けは存在せず、むしろ、これらの化合物を用いた場合には、「加熱溶融加工時の揮発が少なくフィルム製造時のロール汚れも発生しにくい」という甲1発明Aの目的が達成できなくなるめ、阻害要因が存在すると主張する。しかし、前記⑶イのとおり、フィルム製造時のロール汚れの発生防止は、甲1に記載されている発明が解決しようとする課題(段落[0006])に挙げられておらず、甲1において、フィルム製造時のロール汚れの防止の観点から融点が110℃以上の紫外線吸収剤を選択することが好ましいとの記載が存在するとしても、そのことをもって、融点が110℃未満の紫外線吸収剤を甲1発明Aに適用することの動機付けがないとか、これを適用することについて阻害要因があると認められることには直ちにならない。そして、甲1の段落[0029]には、甲1に記載された発明に用いることのできるトリアゾール系紫外線吸収剤として、融点が110℃未満であるものも挙げられている(甲6~8)。そうすると、甲2の化合物K、O、Pの融点が130℃未満であることをもって、これらの紫外線吸収剤を甲1発明Aに適用することの動機付けがないとか、これを適用することについて阻害要因があると認められることにはならない。

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