着手金返還請求

企業間で特許発明に係る通常実施権を許諾するにあたり、着手金を定めた契約書を締結することがあります。今回は、契約書3条2項に定める規定に違反したとして、着手金返還請求が認められた事例を紹介します(令和5年(ワ)第29933号 着手金返還請求事件)。特許出願明細書に実験例を記載することがありますが、その証拠データをきちんと残しておくことが重要です。

(要旨)原告が、本件発明の実施品である風力発電装置を製造し、風速約6m/sの条件下で実験を行ったところ、電力は30w程度であったことが認められ、このような結果は、風速6mに達するまでに、瞬間的に3kwを出力することという本件契約3条2項の定める「正常」な性能を有するものといえないことは明らかであるといえる。そして、上記(2)に説示したところに加え、認定事実イないしオによれば、原告は、本件資料を基に被告から説明を受け、本件発明の実施品である風力発電装置が風速6メートルを達成するまでに瞬間的に3kwを出力することが可能であることを前提に本件発明の実施品を用いた海外での事業展開を考え、本件契約を締結したと認められることからすれば、上記のとおり「正常」な性能を有するものといえない本件発明の実施品について実用化が困難であるとした原告の判断には理由があるといえる。なお、被告は、本件契約3条3項は、同条2項と別個の条項であり、同条3項により着手金の返還義務が生じるのは、実用化が難しいと判断された場合に限られるとして、同項が定める着手金返還義務の要件に「発電状態が正常でな」いことは含まれないかのように主張する。しかし、前提事実(3)のとおり、本件契約3条各項は、いずれも本件特許の実施許諾の対価としての契約金の支払に係るものであり、また、2項ないし3項は、いずれも当該対価の支払ないし最終的な帰属(返金の可否)について、発電状態が「正常」であるという同一の条件に係らしめているという同条の構造に照らすと、同条3項により着手金の返還が認められるための条件として定められた「正常」の意味についても、同条2項の「正常」の定義と同旨のもの、すなわち、「風速6メートルを達成するまでに、3キロワットを出力すること」であるものとして理解するのが相当である。これに反する被告の上記主張は採用することができない。

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