私権の享受

民法3条2項には私権の享受規定が設けられており、特許法25条(商標77条3項で準用)には、条約に特段の定めがあるときに商標に関する権利を享受できる旨が規定されています。今回は、パリ条約に加盟している同盟国の外国法人は、商標に関する権利があると認定され、商標権が維持された事例を紹介します(令和7年(行ケ)第10121号 審決取消請求事件)。パリ条約の同盟国にある外国法人は、日本法人がなくても当然、特許や商標に関する権利を享受できます。

(要旨)原告らは、被告(IOC)がスイス国の外国法人であることは立証されておらず、被告は民法35条1項によりその成立が認許された外国法人でもないから、日本国において権利能力を有さず、そうすると、被告は本件商標の商標権者となることはできず、被告による本件商標の使用は商標権者による使用には当たらないとし、それにもかかわらず、その旨の原告らの主張を退け、本件商標について商標権者による使用があったとした本件審決の認定・判断には誤りがある旨を主張する。この点につき、民法3条2項は、「外国人は、法令又は条約の規定により禁止される場合を除き、私権を享有する。」と規定し、同項の「法令の規定により禁止される場合」として、特許法25条は、「日本国内に住所又は居所(法人にあっては、営業所)を有しない外国人は、次の各号の一に該当する場合を除き、特許権その他特許に関する権利を享有することはできない。」と、同条3号は「条約に別段の定があるとき」と規定し、商標法77条3項は、特許法25条の規定を準用している。そして、特許法25条柱書きの「外国人」には、外国法人が含まれ、また、同条には、外国法人について、民法35条の認許された外国法人に限定する文言はないから、認許されていない外国法人も、特許法25条柱書きの「外国人」に該当するものと解される。しかるところ、パリ条約2条1項は、「各同盟国の国民は、工業所有権の保護に関し、この条約で特に定める権利を害されることなく、他のすべての同盟国において、当該他の同盟国の法令が内国民に対し現在与えており又は将来与えることがある利益を享受する。すなわち、同盟国の国民は、内国民に課される条件及び手続に従う限り、内国民と同一の保護を受け、かつ、自己の権利の侵害に対し内国民と同一の法律上の救済を与えられる。」と規定しており、この規定は、商標法77条3項が準用する特許法25条3号の「条約に別段の定があるとき」に該当するものと解される。
そして、被告は、スイス国の法律に従って組織されて存続する法人であり(スイス国の公証人による法人国籍証明書(訳文)。当裁判所に顕著。乙3及び12についても同じ。)、日本国及びスイス国は、いずれもパリ条約に加盟しており、「同盟国の国民」であることからすると、被告については、上記「条約に別段の定があるとき」に該当し、民法3条2項による権利の享有の禁止は適用されないと解すべきである。以上によれば、被告は、商標権その他商標に関する権利を享有することができるものと認められるから、原告らの上記主張は、その前提において採用することができない。原告らは、上記と同旨の知的財産高等裁判所の判断は誤りである旨を主張するが、独自の見解であり採用できない。上記のとおりであり、原告らの主張する取消事由1は理由がない。

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