競業避止義務

退職後の競業避止義務は、職業選択の自由、営業の自由を制限するものであるため望ましくありません(日本国憲法第22条)。今回は、医師の退職後における競業避止義務について無効ではないと判断された事例を紹介します(令和6年(ワ)第8646号 損害賠償等請求事件)。退職後に以前のクライアントへ営業をすることを禁止する業界もありますが、基本的に営業の自由の観点から好ましくないと思われます。

(要旨)一般に、退職後の競業避止義務は、職業選択の自由、営業の自由を制限するものであるから、競業を禁止する合意をした場合であっても、当然にその文言どおりの効力が認められるものではないことは確かであるものの、その制限が、競業禁止によって守られる利益の内容及び性質、在職中の地位、代償措置の有無、禁止行為の範囲や期間等を総合的に考慮し、合理的かつ必要な範囲を超えない場合には、公序良俗に反して無効となるものではないと解される。

本件についてみると、被告は、上記のとおり、令和3年11月から令和5年11月に退職するまでの約2年間、本件分院の院長兼管理者の地位にあり、それ以前も、原告グループに属する別の分院の院長兼管理者の地位にあるとともに、長らく原告の理事でもあり、美容外科クリニックを経営・管理する立場にあった。これに加えて、美容医療という業務の性質上、審美上の悩みや施術履歴を含めた顧客情報は、事業上の有用性、必要性の高い情報であるといえるが、被告はそういった情報にアクセスすることができた上、医師として個別の顧客との人的関係を構築する立場にもあったもので、被告の存在自体が、顧客の誘引、維持上も役割を果たしていたといえることも踏まえると、競業避止義務を課す必要性自体は高いといわざるを得ない。
そして、本件変更確認書に基づく競業避止義務によって禁止される競業の範囲は、退職前直近1年以内に院長として勤務経験のある分院が所在する市区町村内、かつその分院から半径10キロメートル以内と、期間としても、地理的範囲としても限定されており、被告が上記のとおりの地位や役割にあったこととの対比において、その制限の程度も過度なものとはいえない。他方、被告は、上記のとおり、原告から年額2500万円という高額の固定給を支給されていた上、これに付加して、相当額に及ぶインセンティブ給与の支給も受けるなど(乙48)、経済的に厚遇であったこと、上記競業禁止と表裏のものとして、退職の日から1年間、取引業者の紹介、資金調達支援、WEB広告支援等の独立サポート制度の提供を受けることができるとされていたことからすると、上記制限の内容、程度に照らし、十分な代償措置も講じられていたといえる。これらの事情を総合的に考慮すると、本件変更確認書に基づく競業避止義務は、その制限が合理的かつ必要な範囲を超えるものではなく、公序良俗に反して無効とはいえない

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