ランプ
引例同士を組み合わせて進歩性を否定するには、引例同士の課題や作用機能が共通することや主引例に阻害要因がないことが必要です。今回は、2つの引例を組み合わせて進歩性が否定されたランプの無効審決取消訴訟の事例を紹介します(令和7年(ネ)第10070号 特許権侵害差止等請求控訴事件)。相違点3つ全てについて、課題が自明であり阻害要因がなく、引例同士の作用機能も共通するとして進歩性が否定されました。
(要旨)(相違点10-1)
本件発明1-1は、構成要件1E「光透光性カバー」を含み、構成要件1I「前記筐体の開口に、前記光透過性カバーが配置され」るのに対し、乙10発明は、光透過性カバーを有していない点。
(相違点10-2)
LEDモジュールに関し、本件発明1-1は、構成要件1F「複数のLEDと、前記複数のLEDを実装する実装面を有するLED基板とを含」むのに対し、乙10発明は、LEDが複数であるか不明な点。
(相違点10-3)
筒状リフレクタに関し、本件発明1-1は、LEDモジュールの構成要件1G「光照射側に配置され」るのに対し、乙10発明は、LEDモジュールの構成10g「光照射側に配置される部分を含」む点。
イ 相違点10-1の検討
(ア) 乙12公報には、屋外又は屋内の各種の照明に用いられる照明器具において、筐体10の出射口23を覆う透光性部材である前面カバー14を設けることが記載されている(【0060】、【0020】)。そして、乙10発明は、構成10l「飛行機を滑走路に誘導するための進入灯及び閃光灯等としても利用できる照明装置。」であるところ、屋外用の照明装置において、筐体内への風雨や塵埃等の進入を防止すべく、カバーを設けることは自明な課題というべきであるから、乙10発明において、風雨や塵埃の進入を防止すべく、乙12公報に記載された「光透過性である前面カバー14」を適用し、相違点10-1に係る本件発明1-1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであると認められる。
(イ) これに対し、被控訴人は、乙10発明では、筐体11の両端が開口していることが放熱効率の向上に寄与しているところ、この仕組みは、乙10公報の記載から、当業者であれば、容易に理解でき、筐体11の両端が開口していることには技術的意義があり、筐体11の開口を光透過性カバーで塞ぐことは、乙10発明の放熱効率を低下させることになって、その技術的意義を損ねることになるから、乙10発明において、乙12公報の「前面カバー14」を適用することには阻害要因がある旨主張する。しかし、乙10公報には、筐体の両端が開口していることによる放熱効率の向上や、筐体内部の空気の流れに関する記載はない。一方、乙10発明は、構成10kのとおり「熱拡散手段12が、筐体11及び発光素子基板13と熱的に接触しているため、LEDが発した熱を熱拡散手段12を通じて筐体11の外周に伝えることができ、放熱に優れ」るものであるから、乙10発明において、筐体11の両端の開口が照明装置の放熱を行う上で必須の構成であるとまではいえない。したがって、乙10発明に乙12公報の「前面カバー14」を適用することに阻害要因があるとはいえず、被控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 相違点10-2の検討
(ア) 乙12公報には、光源モジュールとして、多数のLEDをLED基板31の上に密集配置して平面視略円形(四角形も有り得る)の面状の発光部31Aを形成したチップオンボード(Chip On Board:COB)構造の発光デバイスであるCOB型LED30を用いることが記載されている(【0022】)。そして、乙10発明と乙12公報の上記記載事項とは、LED照明装置という共通の技術分野に属し、光源という作用、機能も共通するから、乙10発明の発光素子基板13として、乙12公報に記載された、多数のLEDをLED基板31の上に密集配置したCOB型LED30を採用し、相違点10-2に係る本件発明1-1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであると認められる。
15 (イ) これに対し、被控訴人は、①乙12公報における課題は、筐体とLED基板との間の絶縁性を保持し、かつ、発光素子(LED)の放熱性能を向上させることであるのに対し、乙10発明の放熱機構は、ヒートパイプ等の熱拡散部材を使用して筐体に放熱する技術であり、ヒートパイプは金属製であるため、絶縁性は低く、乙12公報における絶縁性の課題に反する構成であるから、乙12公報における課題に反して、乙10発明に乙12記載事項を適用することには、動機付けが存在しない、②
乙10発明の課題は、放熱器の塵埃及びオイルミストの堆積防止であるのに対し、乙12公報に記載された照明器具は、筐体の外部に放熱部(放熱器)を取り付けるものであり、放熱部として多数の放熱板から構成される放熱フィンを採用しているため、工場の天井に取り付けると、放熱フィンに塵埃及びオイルミストが堆積することになり、乙10発明の課題を解決できないから、乙10発明の課題に反して、乙10発明において乙12記載事項を適用することには動機付けが存在しないなどと主張する。しかし、被控訴人の上記主張は、乙10発明において乙12公報の放熱機構を適用することの動機付けをいうものであるところ、乙10発明において採用すべき構成は、乙12公報に記載された放熱機構ではなく、乙12公報に記載された「多数のLEDをLED基板31の上に密集配置したCOB型LED30」であるから、被控訴人の上記主張は、前記(ア)の判断を左右しない。
10 エ 相違点10-3の検討
(ア) 筒状リフレクタに関し、乙10発明は、LEDモジュールの構成10g「光照射側に配置される部分を含む」から、少なくとも当該部分をもって、光照射側に配置されているといえる。したがって、相違点10-3は実質的な相違点とはいえない。仮に相違点10-3が実質的な相違点であるとしても、乙12公報には、ベースプレート32にCOB型LED30を取り付けるとともに(【0023】)、ベースプレート32の表面に反射鏡固定具42を固定し(【0024】)、反射鏡34を反射鏡固定具42に取付固定する(【0025】)こと、すなわち、反射鏡34を、COB型LED30の光照射側に配置することが記載されている。そして、乙10発明と乙12公報の上記記載事項とは、LED照明装置という共通の技術分野に属し、乙10発明のリフレクタ14と乙12公報記載の反射鏡34とは、LEDの光を筐体の一端側に反射するという共通の作用、機能を奏するものであるから(乙10【0012】、乙12【0027】)、乙10発明のリフレクタ14に換えて、乙12公報に記載された「反射鏡34を、COB型LED30の光照射側に配置する構成」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(イ) これに対し、被控訴人は、乙12公報には、筒状リフレクタの記載はあるものの、乙10発明の課題に反して、乙10発明において乙12記載事項を適用することには動機付けが存しない旨主張する。5 しかし、被控訴人の上記主張は、乙10発明において乙12公報の放熱機構を適用することの動機付けをいうものであるところ、乙10発明において適用すべき構成は、乙12公報に記載された放熱機構ではなく、乙12公報に記載された「反射鏡34を、COB型LED30の光照射側に配置する構成」、すなわち筒状リフレクタの配置であるから、被控訴人の上記主張は、前記(ア)の判断を左右しない。また、被控訴人は、乙10発明のリフレクタ14は、リフレクタとして作用する傘状の部分に加え、熱拡散手段12に沿った長い板状の部分が存在し、この板状の部分は、熱拡散手段12としてのヒートパイプがある程度の長さを要することによるものであるから、このような乙10発明のリフレクタに代えて、乙12公報のようなリフレクタを採用することは不可能である旨主張する。しかし、乙10発明のリフレクタ14の板状の部分はリフレクタとして作用する部分ではなく、また、当該板状の部分が格別の作用や効果を奏するものであることについては乙10公報に記載がない。他方で、乙10公報には、発光素子基板13を取付体15に固定することが記載され(【0024】)、また、乙12公報には、COB型LED30を取り付けるベースプレート32に反射鏡34を固定することが記載されている(【0023】~【0025】)から、乙10公報に記載された取付体15に、乙12公報に記載された反射鏡34を固定することは、当業者にとって容易というべきである。

