明確性
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でなければならないことを規定しています。今回は、明確性が争われた事例を紹介します(令和7年(行ケ)第10101号 特許取消決定取消請求事件)。当然のことですが、特許請求の範囲の用語の明確化を図るために、明細書でしっかり記載しておく必要があります。
(要旨)本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。磁性層と、導電層とを備える磁気シールド材であって、前記導電層は、一層のみであって、この一層の導電層が、遮蔽対象となる電磁波の周波数帯に応じた6.5~50μmの厚みを有し、前記導電層の導電材料は、アルミニウムであり、前記遮蔽対象となる電磁波の発生源の上に、前記導電層を配し、さらにその上に、前記磁性層を配するようにしたことを特徴とする磁気シールド材。
本件訂正発明1において、「一層の導電層」は、「遮蔽対象となる電磁波の周波数帯に応じた6.5~50μmの厚み」を有するものとされているところ、「周波数帯」とは、「ある二つの周波数の間の範囲」という意義を有するから(乙1:電子通信用語辞典)、導電層の厚みと対応関係にある周波数の上限値と下限値が特定されなくては、当該導電層の厚みが、「遮蔽対象となる電磁波の周波数帯に応じた」ものであるか否かは判別できないというべきである。次に、本件明細書等をみると、次のとおり、【図3】として、導電層(アルミ箔)の厚みを6.5μm、11μm及び30μmとした磁気シールド材についての磁界シールド効果を計測したグラフが記載されている。しかし、【図3】の記載によっても、6.5μmから30μmまでの間の特定の厚みを有する導電層について、その厚みが、上限値と下限値により画される特定の周波数帯に「応じた」ものといえるか否かを判断することはできない。そうすると、本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといわざるを得ない。この点について、原告は、本件訂正発明1の実施品には、ユーザが確認できる情報として、「遮蔽対象となる電磁波の周波数帯」が直接的(商品パッケージ等に記載)又は間接的(製品番号や二次元コードから照会)に記載されるから、当業者は、格別な困難を要さずともこれらの情報を確認することができるとして、特許請求の範囲の記載は不明確であるとはいえない旨主張する。しかし、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められ、その用語の意義の解釈に際しては、明細書の記載及び図面を考慮すべきところ(特許法70条)、商品パッケージ等による表示の有無及び内容によらなければ技術的範囲に含まれるか否かの判断ができないというのであれば、当該特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといわざるを得ない。また、客観的に同一の物であっても、表示の有無及び内容によって本件訂正発明1の技術的範囲に含まれる物と含まれない物が存在し得るということになるが、そのような技術的範囲の解釈を第三者に強いることは、正に特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であることの帰結というほかはない。

